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「来年から20%になるんですよね。じゃあ、それまで売らずに待ちます」
この夏、相談の場で何度か聞いた言葉です。気持ちはよく分かります。最大55%が20%になるなら、待てるものなら待ちたい。
ただ、この認識には2つのズレがあります。いつから適用されるのか。そして、どの暗号資産が対象になるのか。ここを取り違えると、待ったのに恩恵を受けられなかった、ということが起こり得ます。
制度の全体像を、確定している事実と、まだ見込みの部分に分けて整理します。
結論を3行で
暗号資産を金融商品取引法へ移す改正法は、2026年7月15日に成立し、7月23日に公布されました。税率20.315%の申告分離課税が適用されるのは、2028年1月1日以後の取引になる見込みです。そして対象は「特定暗号資産」に限られ、海外取引所にしかない銘柄やDEXでの直接売却は、引き続き総合課税のままとなる見通しです。
2026年分・2027年分の申告は、これまでどおり雑所得・総合課税で進めることになります。
「20%」はいつから適用されるのか
順を追います。
暗号資産はこれまで、資金決済法のもとで「決済手段」として規制されてきました。それを金融商品取引法へ移し、株式などとは別枠の「金融商品」として位置づけ直す。これが今回の改正の土台です。
その改正法——正式には「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」——が2026年7月15日に成立し、2026年7月23日付の官報で公布されました。ここまでは確定した事実です。
施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令が定める日、とされています。金融庁の法案説明資料では、主要な規制について2027年4月1日からの施行が想定されていました。
そして税制側の適用時期は、「金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」以後に行う取引と定められています。
つまり、施行が2027年中なら適用は2028年1月1日から。これが現時点で有力な見通しです。理屈のうえでは、施行が2026年中に前倒しされれば2027年1月1日からということになりますが、公布からの期間を考えると現実的ではないでしょう。
「2028年から」と言われているのは、こういう積み上げの結果です。報道が先行していた時期は「議論されている方向性」という書き方が多かったのですが、いまは条文に基づいて時期を語れる段階に入っています。
改正で何が変わるか
| 項目 | 現在 | 改正後 |
|---|---|---|
| 規制法令 | 資金決済法 | 金融商品取引法 |
| 課税方式 | 雑所得・総合課税 | 申告分離課税 |
| 税率(住民税・復興特別所得税込み) | 最大55.945% | 一律20.315% |
| 損失の繰越控除 | できない | 翌年以後3年間の繰越が可能 |
| 対象取引 | ― | 現物取引・デリバティブ取引・ETF |
税率の差がどれくらい効くのか、ひとつ数字を置いてみます。
給与所得800万円の会社員が、暗号資産で500万円の利益を出したとします。現行の総合課税では、この500万円に適用される所得税率は33%。所得税だけで約155万円です。これが申告分離課税になると一律15%で約75万円。所得税部分だけで80万円ほど負担が軽くなる計算になります(復興特別所得税・住民税は考慮していない概算です)。
もうひとつ、地味ですが効くのが損失の3年繰越です。これまでは、暴落した年に大きな損を出しても、翌年の利益と相殺できませんでした。確定申告書を継続して提出するなどの要件を満たせば、控除しきれなかった譲渡損失を翌年以後3年間くり越せるようになります。相場の波が大きい資産ほど、この仕組みの有無は大きい。
一方で、注意も要ります。給与所得が低く、もともと累進税率が20%以下の方にとっては、分離課税になることが必ずしも有利とは限りません。税率が「下がる」のではなく「一律になる」改正なので、人によっては負担が増える方向に働きます。
見落とされがちな「特定暗号資産」という条件
ここが、本記事でいちばんお伝えしたい部分です。
20.315%の申告分離課税は、すべての暗号資産に適用されるわけではありません。対象は「特定暗号資産」に限られます。
特定暗号資産とは、おおむね「国民の資産形成に資する金融商品」とされ、主に金融商品取引業者の登録簿に名称が登録されている暗号資産を指します。ビットコインやイーサリアムなど、国内の登録取引所で扱われている主要な銘柄が対象になる見込みです。
裏を返すと、こうなります。
海外取引所でしか扱われていないマイナーな銘柄は、特定暗号資産に該当しません。これらの譲渡は引き続き総合課税の対象で、申告分離課税も損失の繰越控除も損益通算も適用されません。
DEX(分散型取引所)で直接売却・交換した場合も、分離課税の対象外となります。国内の登録業者に移送して売却するといった、経路の要件を満たす必要があるとされています。
これは実務上、かなり大きな話です。ウォレットに置いたままDEXでスワップして利益を確定させた場合、その取引は20%の恩恵を受けられない可能性がある。「改正を待って売る」という戦略を立てるなら、どこで売るかまで含めて考えないと意味がないわけです。
「暗号資産の税金が20%になる」という一行だけが広まっていますが、実際の適用はもう少し込み入っています。ご自身の保有銘柄と、それがどこにあるのかを、いちど棚卸ししておくことをおすすめします。
もうひとつの論点:国外転出時課税
税制改正大綱には記載がないものの、専門家の間で指摘されている点があります。改正法の施行に伴い、暗号資産が「国外転出時課税制度」の対象資産に追加される可能性です。
国外転出時課税とは、1億円以上の有価証券や未決済デリバティブ取引などを持つ一定の居住者が国外へ転出する際、その含み益に対して時価で所得税が課される仕組みです(所得税法第60条の2)。現行制度では暗号資産は対象資産に含まれていませんが、金融商品として位置づけられることで、対象範囲が見直される可能性がある、と。
海外移住を視野に入れている方にとっては、無視できない話です。確定した内容ではありませんが、今後の法案や省令の動きは追っておいたほうがよさそうです。
改正を見据えて、いまからできる3つのこと
1. 取引履歴を、いまのうちに整理しておく
改正後は「特定暗号資産に該当するか」「どの経路で売却したか」で扱いが分かれます。どこの取引所で、いつ、いくらで買ったのか。この記録が曖昧だと、本来受けられるはずの有利な扱いを立証できない、ということになりかねません。
取引所が突然サービスを終了して過去データが取り出せなくなる、という事態も実際に起きています。月末ごとに取引履歴をダウンロードして保存しておく——地味ですが、これがいちばん確実な自衛策です。
2. 海外取引所・DEXに置いたままの資産の扱いを決めておく
特定暗号資産以外は総合課税のまま、DEXでの直接売却も対象外。国内の登録業者に移したうえで売る、という段取りが必要になる見込みです。移管にはネットワーク手数料も時間もかかりますから、直前に慌てて動くのは避けたいところ。
国内取引所をまだ持っていない方は、この機会に口座だけでも開いておくと動きやすくなります。どこを選ぶかは、こちらで整理しています。
▶ 【2026年9月最新】国内暗号資産取引所おすすめ比較|CFPが手数料・銘柄数で解説
3. 含み益が大きい方は、実現のタイミングを検討する
制度移行をまたぐので、どの年に売却するかで税負担が変わります。ただしこれは、その方の所得状況・資金需要・保有銘柄によって答えが変わる話で、一般論で「待つべき」とは言えません。金額が大きいなら、早めに暗号資産に詳しい税理士へ相談されることをおすすめします。
まずは、自分の損益を把握するところから
改正の話は先の話です。目の前の2026年分は、これまでどおり雑所得・総合課税で申告することになります。
確定申告のやり方、課税されるタイミング、総平均法と移動平均法の違い、税額のシミュレーション——実務の部分は別記事にまとめています。
そのうえで、ひとつだけ。
複数の取引所を使っている、DeFiやNFTにも触れた、ステーキング報酬が毎日入っている——こういう方が手作業で集計するのは、率直に言って現実的ではありません。1分単位の時価を全取引について拾う必要があり、Excelではまず終わりません。
損益計算ツールを使うことになりますが、代表的なのがクリプタクトです。取引所とのAPI連携や履歴ファイルのアップロードで自動計算してくれるもので、DeFiやNFTの取引もウォレットアドレスを入れれば自動識別します。
料金について、ひとつ正確にお伝えしておきます。無料プランは年間10万件まで取り込めますが、損益の計算結果が表示されるのは50件までです(公式の料金ページに注記があります)。ですので実際の使い方としては、まず無料で登録して自分の履歴がちゃんと読み込めるかを確かめ、件数に応じて有料プランを検討する、という流れになります。
有料プランは年間300件までのベーシックが6,600円(年・税込)、2,000件までのプライムが22,000円、それ以上はプロ(38,500円〜)。対応する仮想通貨は33,937種類とされています。
税理士に相談する前段としても、自分の損益がいくらなのか掴んでおくのは意味があります。数字を持って行ったほうが、話がずっと早い。
「改正まで売りたくない、でも資金が要る」という場合
最後に、相談の現場でわりと出てくるケースについて。
含み益の大きい暗号資産を持っている。改正まで待てば税負担は軽くなる。でも、住宅の頭金や事業資金が今すぐ必要——この板挟みです。
選択肢のひとつが、暗号資産を担保に日本円を借りるデジタルアセット担保ローンです。大和証券グループ本社とクレディセゾンの合弁会社であるFintertech株式会社が提供しているもので、ビットコインやイーサリアムを売らずに資金を調達できます。
公式の貸付条件によると、円貸付の実質年率は4.0%〜8.0%。返済は期日一括返済方式で、返済期間1年・返済回数1回です。月々の返済がない設計なので、資金繰りは読みやすい。
ただ、ここは誤解のないように書いておきます。これは節税ではありません。 売却を先に延ばしているだけで、いずれ売れば課税されます。担保にした暗号資産が値下がりすれば追加担保や強制売却の可能性もありますし、遅延損害金は年率15.0%と軽くない。借入である以上、返済の目処が立つかどうかが判断の軸です。
そのうえで「いま売りたくない理由がはっきりしている」なら、検討する価値のある手段だと思います。
よくある質問
Q. 2027年に売れば20%になりますか?
A. 施行が2027年中であれば、適用は2028年1月1日以後の取引からです。2027年中の売却は、従来どおり総合課税になる見込みです。
Q. 海外取引所で買った銘柄は、国内に移せば20%になりますか?
A. その銘柄が「特定暗号資産」に該当し、かつ国内の登録業者を経由して売却する必要があるとされています。国内取引所が扱っていない銘柄は、移したくても移せません。
Q. 損失の繰越は、改正前の損失にも使えますか?
A. 繰越控除は改正後の制度です。改正前に生じた損失を持ち越せるかどうかは、今後の詳細な規定を確認する必要があります。
Q. 待っていれば必ず得になりますか?
A. いいえ。もともとの所得水準が低く、適用される累進税率が20%を下回る方の場合、一律20.315%になることで負担が増える可能性があります。ご自身の所得状況次第です。
まとめ
制度は確かに、投資家にとって使いやすい方向へ動いています。ただ、そこには「いつから」と「どれが対象か」という2つの条件がついている。ここを押さえずに「待てばいい」と構えると、思っていた恩恵を受けられないことになりかねません。
いまできることは、そう多くありません。取引履歴を整理し、資産がどこに置かれているかを把握し、目の前の申告をきちんと済ませる。それだけです。ただ、その「それだけ」を2年続けられるかどうかで、2028年に立てる選択肢の幅はけっこう変わってくるはずです。
あわせて読みたい
情報の出典(2026年9月29日確認)
国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和7年12月)」、国税庁タックスアンサーNo.1524、金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)、PwC弁護士法人「暗号資産に係る2026年金商法等改正法の成立」(2026年7月28日)、大和総研「暗号資産取引に20%の申告分離課税導入へ」(2026年2月6日)、辻・本郷税理士法人「仮想通貨の税金が20%に!分離課税の開始時期と適用要件を解説します」(2026年9月9日)、クリプタクト公式料金ページ、Fintertech「貸付条件」。
監修者プロフィール
あきFP(CFP®認定者/IFA・独立系ファイナンシャルアドバイザー)
家計・資産形成の相談実務に携わるファイナンシャル・プランナー。暗号資産を含む新しい資産クラスについて、初心者にも分かりやすく中立的な情報発信を行う。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断や投資勧誘を行うものではありません。税制は改正される可能性があり、記載内容は2026年9月29日時点のものです。施行時期・適用範囲には未確定の部分が含まれます。個別の申告・納税については、必ず国税庁の最新情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。暗号資産は価格変動が大きく、元本を割り込む可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


