主要マーケット動向
ビットコインは日本時間11日朝の時点で8万2,976ドル。24時間+0.60%、週間-2.04%、30日では+7.59%です。先週8万5,000ドル手前で失速したあと、下値は8万2,000ドル台前半で止まっている形。上に行く力も下に行く力も、今は両方抜けています。
イーサリアムは2,507ドルで24時間+1.01%。ただ週間は-6.63%と、BTCの三倍以上の下げ幅です。BTCドミナンスは59.43%に対しETHは10.91%で、1週間前の11.33%から低下が続いています。この偏りは昨日の朝刊でも書いたとおり、まだ解けていません。
週末で米国市場は休場です。金曜(9日)の終値はダウ51,654.95ドル(+0.8%)、S&P500が7,811.54(+0.6%)、ナスダック27,366.17(+0.6%)。週間ではS&P500が+1.2%、ナスダックは4週続伸。米10年債利回りは5.25%をわずかに下回る水準で、水曜に約24年ぶりの5.37%近辺をつけたあとの小休止です(Yahoo Finance)。
為替はドル円が158円31銭で引け。原油はWTIが91.20ドル、金は約4,220ドル(+1.5%)。株も金も動いているのに暗号資産だけが動かない、という絵は9日夕方から変わっていません。
デリバティブは凪です。未決済建玉は3,665億ドルで24時間-7.08%、30日では-20.79%。ファンディングレートは0.00085%まで落ち、24時間で-82%。BTCの清算額は24時間で313万ドル(前日比-94.8%)、うち283万ドルがショートの清算でした。
重要ヘッドライン
- Ledgerが「未承認のハードウェアインプラント」を確認。10日、被害ユーザー1台の端末に承認外の部品が入っていたと公表しました。自社インフラやサービスの侵害は確認されていないとのこと。詳細は下の深掘りで。
- 米国のETFは3カテゴリそろって流出。先週はBTCが6億8,110万ドルの純流出で3週連続の流入が途切れ、ETHは5億4,210万ドルで1月以来最悪。ソラナも2,480万ドルの流出で、記録となっていた14週連続流入が止まりました。3つ合計で約12億5,000万ドルです(The Block)。
- ETHの流出は9営業日連続。9月29日以降の累計6億9,720万ドルのうち、88%がブラックロックのETHAです。純資産は157億1,000万ドルへ10%減少しました。
- 金融庁がサイバー対策の点検を要請(9日)。非対面の本人確認の厳格化と、ICチップ読取への早期移行を求めています。2027年4月1日には本人確認書類の画像送信方式が廃止予定で、暗号資産交換業者もガイドライン上の「金融機関等」に含まれます(CoinPost)。
- ベッセント米財務長官、イラン関連の暗号資産約10億ドルの押収に言及。早ければ今週とのこと。ホルムズ海峡でのタンカー攻撃も報じられ、地政学が原油経由で金利に跳ね返るルートは残っています。
- 量子耐性ナラティブが続く。Starknetが量子耐性を備えた独立レイヤー1を検討し、STRKは7日で+100%。ただ実用的な量子攻撃はまだ実証されておらず、センチメント先行だと見ています。
テーマ深掘り:正規代理店から届いた端末に通信チップ──ハードウェアウォレットの「調達経路」という盲点
今朝いちばん重いのは価格ではなく、保管のほうです。
9日、東南アジアでLedgerの端末を使う利用者から資金消失の報告が相次ぎました。共通点は購入先。Ledgerの代理店一覧に載っていたCryptoBilis(インドネシア・マレーシア・フィリピン)経由の端末です。Ledgerは同社に販売と出荷の即時停止を求め、過去90日以内に購入した人にはセットアップを始めないよう呼びかけています(CoinDesk)。
10日には、Ledgerが「被害ユーザーの端末1台に未承認のハードウェアインプラントが含まれていた」と確認しました(Bitcoin.com)。
手口の具体像は、旧Mt.Goxのマルク・カルプレス氏が自分の端末を分解して公開した調査がわかりやすい。マレーシアから届いたNano Xは、シュリンクラップが一見して無傷。ところがディスプレイの緩衝材が入るあたりに、2ミリ角ほどの「スパイSIM」と呼べる基板とセルラー通信部品が隠されていた。セキュアエレメントを破るのではなく、初期設定で画面に送られるデータを横から見て、表示された24語を携帯回線で外に飛ばす設計だったとされています(The Crypto Times)。
被害額の推計は、Bitqueryが311アドレスで約9,290万ドル、Yfarmxが471アドレスで約9,340万ドル。ドル円158円なら147億円前後です。BTC・ETHに加えTRON、BNB Chain、Polygonにも及んでいます。ただし確認されたインプラントはまだ1台だけで、全被害が同じ原因かは判明していません。推計の幅が8,600万〜9,340万ドルと広いのも、確定していないことの裏返しです。
強調したいのは、暗号技術が破られたわけではないという点です。破られたのは物流です。CZは単一ベンダー経由のサプライチェーン攻撃の可能性を指摘し、自己保管には追加の責任が伴うと述べています(同時にOneKeyやSafePal等への出資も開示しており、その立場は割り引いて読むべきでしょう)。
CFPとして相談を受けていて、この数年いちばん増えた質問が「取引所が怖いのでハードウェアウォレットにすべきか」です。今回の件が示したのは、その移動でリスクが消えるのではなく種類が入れ替わるということだと思います。取引所の破綻やハッキングという他人起因のリスクが、自分の操作ミスと「調達経路」のリスクに置き換わる。8月にはコールドカード経由で110億円規模が流出した件も扱いました。今回で二度目です。
実務的な線引きはおそらく三つです。ひとつ、端末はメーカー直販か一次正規ルートで買い、フリマや値引きの効く第三者在庫は使わない。ふたつ、リカバリーフレーズは端末が生成したものだけを使う(同梱の紙に書かれていたら即座に捨てる。今回は「端末が生成した画面」すら覗かれていたので、もう一段厳しい話になります)。みっつ、全額を一台に集めない。地味ですが、今回のような一点故障にはいちばん効きます。
個人が顕微鏡で基板を確認するのは現実的ではありません。だからこそ、買う場所を一段上げるという対処が残ります。Ledgerは改ざん防止策の強化を開発中としていますが、それが出るまでをどう過ごすかは保有者側の判断です。
識者の見方:強気・弱気の両論
強気側の論拠。清算の中身です。24時間のBTC清算313万ドルのうち283万ドルがショートで、下を売った側が負けている。未決済建玉は30日で-20.8%まで落ち、レバレッジが抜けきっています。燃料が少ない相場は少額の買いでも素直に上がりやすい、という見方は成り立ちます。アルトコインシーズン指数も64まで上昇(1カ月前は40)。
弱気側の論拠は金利です。政策金利は9月16日に3.75〜4.00%へ全会一致で引き上げられ、10月7日公表の議事要旨では参加者の大半が年内の追加利上げを想定していました(CNBC)。10年債は5.25%弱。無リスクで5%取れる場所があるあいだ、キャッシュフローを生まない資産に資金が戻る理屈は細いままです。そこにETF3カテゴリの同時流出が重なりました。
どちらが正しいかは、水曜のCPIで相当はっきりします。14日発表の9月CPIは、市場予想が総合で前年比3.6〜3.7%(8月は3.4%)、コアは前年比2.4%前後。クリーブランド連銀のナウキャストは総合が前月比+0.53%、コアが+0.20%です(Admirals)。10月28日のFOMCでの利上げ織り込みは26%程度まで下がっていますが、総合が上振れればここは一気に戻ります。
今後の注目イベント・指標
- 10月12日(月) 日本はスポーツの日、米国はコロンブスデー。米株は通常取引ですが債券市場が休場で、流動性が薄くなります。
- 10月13日(火) 米大手銀行の決算シーズンが本格化。
- 10月14日(水) 米9月CPI(米東部時間8時30分/日本時間21時30分)。今週の最大の山です。
- 10月15日(木) 米9月PPI、9月小売売上高、新規失業保険申請。
- 10月16日(金) タイの暗号資産ETF規則(11本)が施行。当初はBTCとETHのみが対象です。
- 10月27〜28日 FOMC。現在の利上げ織り込みは26%程度、12月はほぼ織り込み済みという状態です。
- 11月3日(火) 米中間選挙。暗号資産関連法案の進み方に直結します。
まとめ
今朝の相場は、数字を並べるほど退屈です。BTCは8万2,976ドル、ETHは2,507ドル、総時価総額は2.81兆ドル。Fear & Greed指数は57で中立(前日56、1週間前67、CoinMarketCap版)。週末らしい無風です。
でも今日いちばん読んでほしいのは、価格の段落ではありません。147億円が、暗号が破られたのではなく箱が開けられたことで消えた。その箱は、メーカーの代理店一覧に載っているお店から届いた。ここが今回の重さだと思います。
相談の現場で私が言うようにしているのは、価格の話より先に「どこに置いているか、誰が鍵を持っているか、記録はあるか」を一度書き出してみましょう、ということです。面白くはありません。ただ、CPIの上振れ下振れを当てる確率より、保管方法を点検して事故を一つ防げる確率のほうが、どう考えても高い。年内の手続きは年内やることリストにまとめてあるので、連休のあいだに目を通してもらえれば。
水曜のCPIまで価格はこのあたりで足踏みするかもしれませんし、前日から急に動き出すかもしれない。正直わかりません。わからないものを当てにいかずに済む準備のほうを、この週末のうちに進めるのが良いのだろうと考えています。先週の全体像は週間まとめにありますので、あわせてどうぞ。


