【10月13日】トークン化預金とステーブルコイン、日本は「二本立て」で進む|10月始動のDCIOと43行の実証をCFPが読む

ステーブルコイン・決済

「円のステーブルコインって、結局いつ普通に使えるようになるんですか」。この半年、相談の場で何度か聞かれた質問です。正直に答えると、いつも少し困ります。質問の裏にあるのは「新しい決済手段が来るなら乗っておきたい」という気持ちなのですが、日本で今いちばん速く動いているのは、ステーブルコインではなくトークン化預金のほうだからです。

そして10月に入って、その差がはっきり見える形になりました。トークン化預金の標準づくりを担う新しい社団法人が10月1日に本格稼働し、その理事会にメガバンク3行が名を連ねています。一方で、同じメガ3行が共同発行を目指すステーブルコインは、まだ「2026年度中に実取引」という目標の段階にとどまっています。

テーマ深掘り:トークン化預金とステーブルコイン、日本は「二本立て」で進む

まず、似ているけれど別物です

混同されやすいので整理しておきます。

ステーブルコインは、発行者が円やドルに価値を連動させて出すデジタル資産。日本の制度上は「電子決済手段」で、資金移動業型と信託型があります。保有者が持っているのは預金ではなく、発行者に対する請求権や信託受益権です。

トークン化預金は、銀行預金のままブロックチェーン上で記録・移転できるようにしたもの。利用者から見れば預金なので、既存の銀行規制の中に収まります。銀行にとっては、バランスシートから資金が抜けない点が決定的に違う。

この「預金のまま」という性質が、日本で先に進んでいる理由でもあります。制度の建て増しが少なく済むからです。

10月1日に動き出した「デジタル通貨イノベーション機構」

一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)は2026年7月1日に設立され、10月1日から本格的に活動を始めました。2020年に立ち上がった「デジタル通貨フォーラム」を改組したものです。

顔ぶれが目を引きます。代表理事は元財務次官の勝栄二郎氏、副代表理事は元日銀決済機構局長の山岡浩巳氏、顧問に元日銀総裁の黒田東彦氏。理事にはみずほFG、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、ゆうちょ銀行、SBI新生銀行、GMOあおぞらネット銀行の役員が入ります。9月25日時点で40社超が参加または検討中、会員名は10月以降に公表予定です。

狙いは、トークン化預金を軸にした決済インフラの標準化と相互運用性の確保、それに政策提言。「各行がバラバラに作ると使えないものができる」という問題への先手だと理解しています。

ただ、この重量級の布陣をまだ素直に good news とは読んでいません。標準化団体が先にできるのは、現場の実装がそれだけ揉めているからでもある。合意形成に時間がかかるリスクも織り込んでおいたほうがいいと思います。

43社の実証は、実は「地銀主導」だった

ここがいちばん面白い論点です。

金融庁の「FinTech実証実験ハブ」支援案件として、2026年4月3日に「トークン化預金の銀行間決済」の検証が採択されました。申請代表はディーカレットDCP、代表銀行はGMOあおぞらネット銀行、事務局はアビームコンサルティング。8月20日に本格検証が始まり、8月26日の公表時点で参加は43社に達しています。

検証テーマは地味ですが本質的です。各行がそれぞれトークン化預金を出したとき、A行の顧客からB行の顧客へオンチェーンで送金したら、銀行間の決済はどう終わらせるのか。そこを24時間365日のRTGS(即時グロス決済)でオンチェーンに閉じられるか、方式としてはリードバンク方式とステーブルコイン連携方式を並べて検証する、という設計です。

参加行は足利、イオン、鹿児島、静岡、商工中金、常陽、きらぼしFG、八十二日本長野、肥後、ふくおかFG、北陸、横浜、りそなHD。オブザーバーにも愛知、伊予、京都、七十七、千葉、広島、南都など多数の地銀が並びます。

そして、ここにメガバンク3行の名前はありません。メガはステーブルコインの共同発行という別の線を走っていて、この実証には入っていない。その2本の線を、10月から動き出したDCIOが理事会レベルで橋渡しする構図です。

なぜ地銀が預金のデジタル化に前のめりなのか。推測の域を出ませんが、地銀には預金がそのまま動くほうが収益構造を壊さず、メガは法人の越境決済やトークン化資産の決済まで見ているから自由度の高い信託型を選んだ、という説明は自然に思えます。確かなことは言えません。

円建てステーブルコインの現在地

数字を押さえておきます。

資金移動業型のJPYCは2025年10月に提供開始、発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」経由の累計発行額が2026年9月18日時点で100億円を突破しました。対応チェーンはAvalanche、Ethereum、Polygon、Kaiaの4つ。1回あたり・保有あたり100万円の上限があります。

注意が必要なのは、公表値が累計発行額であって残高ではない点です。償還された分も積み上がるので、「いま市中に100億円ある」とは読めません。残高は開示されておらず、普及の実態はこの数字だけでは測れないと考えています。

信託型では、SBI新生信託銀行が発行する「JPYSC」が2026年6月24日に発行を開始しました。国内初の信託型円建てステーブルコインで、JPYCのような100万円上限がない代わりに、当初はSBI VCトレードの口座内に限定され、外部ウォレットへの出金はできません。法務・税務の整理が進んだ段階でパブリックチェーンへ、という段取りです。

メガ3行の共同発行は、2025年11月に金融庁のPIP(決済高度化プロジェクト)で6者申請が採択され、2026年6月10日に「2026年度中の実取引開始を目指す」と公表、運営とガバナンスを協議する協議会の設置で基本合意しました。ただ、この6月の発表は当初計画から後ろ倒しだったとも報じられています。年度内に本当に実取引が始まるかは、まだ見極めが必要な段階でしょう。

規模感も冷静に見ておきたいところです。金融庁の説明資料によれば、世界のステーブルコイン供給量は約3,100億ドル(およそ48兆円)で、USDCとUSDTの2銘柄で約83%を占めます。円建ての累計100億円という数字は、桁が3つ違う。

金融庁は何を見ているのか

2026年9月30日、金融庁は「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の第1回を開きました。注目すべきは、2027年初に中間整理と官民ロードマップを出すとしている点です。制度の方向が文書になるタイミングが、ひとつの節目になります。

同じ資料からいくつか。日銀は2026年末までに当座預金残高のオンチェーン化の検討を整理する。財務省は国債のトークン化とクーポン・元本のオンチェーン支払いを研究中。デジタル庁は給付金をステーブルコインやトークン化預金で配れるかを検討しています。実証では、みずほが2026年4月、三菱UFJが8月に国債のオンチェーン担保取引を開始。株式は振替制度のもとでオンチェーン取引がまだ実現しておらず、野村・大和とメガ3行グループがDvP(証券と資金の同時決済)の実証を進める段階です。この論点はトークン化株式の24時間取引はどこまで現実的かでも整理しました。

海外ではイギリスがデジタル国債「DIGIT」の初回パイロット発行を2027年第1四半期までに予定し、Nasdaqは株式とETFのトークンベース決済を計画しています。日本が遅れているというより、どこも実証から抜け出せていないのが実情でしょう。

銀行は決済収益を失うのか

強気・弱気の両方を見るために、海外の試算も置いておきます。

キャップジェミニの『World Payments Report 2027』(2026年9月発表)は、ステーブルコイン・トークン化預金・CBDCを合わせて2030年までに世界の決済量の約4%に達するとし、銀行側で争点になる決済収益を2,300億ドル規模と見積もっています。為替スプレッド、コルレス業務、フロート収入、取引処理手数料がそれぞれ圧迫を受ける、という整理です。

一方、同レポートの法人1,110社調査には銀行への追い風もあります。74%が越境決済を「遅く・高く・読めない」と答え、コストは取引額の約2%、所要日数は平均3.5日。それでも条件と品質が同等なら71%が銀行を選ぶ。ただし銀行が遅れれば約6割がノンバンクから調達すると答え、すでにB2B決済額の36%がノンバンクを通っています。銀行幹部300人のうち、新しい手段を拡大段階に乗せているのは21%どまりです。

ただ、ベンダーが自社サービスの文脈で出すレポートである点は割り引いて読むべきでしょう。2,300億ドルの算出根拠も公開されていません。

相談を受ける立場から

CFP認定者・IFAとして相談を受けていて、この話題でいちばん伝えたいのは、これは投資テーマではなく生活インフラの話だということです。

トークン化預金が普及しても、利用者から見れば預金が少し便利になるだけで、値上がりする資産ではありません。ステーブルコインも円に連動する設計である以上、持っていて増えるものではない。「ステーブルコインが来るから関連銘柄を」という発想は、少なくとも私は勧めません。インフラ整備と暗号資産の価格は、短期ではほとんど関係がないからです。

では見ておく意味はどこにあるか。ひとつは手数料と着金スピード。海外送金や法人の越境決済を使う方には、数年で実務が変わる可能性があります。もうひとつは税務の整理。ステーブルコインの譲渡や決済利用の課税はまだ論点が残っており、JPYSCがパブリックチェーン対応を「法務・税務の整理待ち」としているのは、そこが詰まっていない証拠でもあります。個別の判断は必ず税理士にご相談ください。

リスクの側も。信託型ステーブルコインは2026年6月の法改正で、裏付け資産として銀行預金に加え発行額の50%まで短期米国債を持てるようになりました。利回りを取りやすくなった反面、裏付けの一部が市場性資産になるということです。ストレス時に何が起きるかは、まだ誰も見ていません。預金と同じものとして扱うのは危ういと思います。

相場メモ

足元の相場にも触れておきます。10月13日19時時点でビットコインは8万3,557ドル、週間2.8%安。イーサリアムは2,512ドルで週間7.3%安、BTCドミナンスは59.9%まで上昇。14日の米CPIを前に様子見という印象です。詳細は10月13日朝のマーケット速報と週間まとめに。国内では金融庁がICチップ本人確認への前倒しを要請という動きもあり、決済インフラの整備と本人確認の厳格化は同時に進んでいます。

情報の出典(2026年10月13日確認)

  • 金融庁「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」(第1回)議事次第・2026年9月30日:fsa.go.jp
  • 金融庁 説明資料(第1回フォーラム・資料2、PDF):fsa.go.jp
  • ディーカレットDCP「金融庁『FinTech実証実験ハブ』支援案件『トークン化預金の銀行間決済』の検証に43社が参加」2026年8月26日:dcjpy.com
  • デジタル通貨イノベーション機構 10月活動開始に関する発表(2026年9月25日):PR TIMES
  • JPYC株式会社「累計発行額100億円を突破」2026年9月18日:PR TIMES
  • SBIグループ「JPYSC」発行開始に関する報道(2026年6月24日):Impress Watch
  • 3メガバンク 共同発行ステーブルコインの協議会設置(2026年6月10日):時事ドットコム
  • Capgemini Research Institute『World Payments Report 2027』(2026年9月):capgemini.com
  • 価格・ドミナンスはCoinMarketCapの2026年10月13日10:01 UTC時点の値

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産・金融商品・サービスの取得や売却を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本が保証されていません。ステーブルコインについても、発行者の信用リスク・裏付け資産のリスク・システムリスクがあり、銀行預金とは異なり預金保険の対象外となる場合があります。制度・税制・サービス内容は変更される可能性があるため、最終的な情報は金融庁・国税庁および各社公式サイトでご確認ください。また、暗号資産やステーブルコインに関する個別の税務判断については、必ず税理士にご相談ください。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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