「無リスクで5%取れるなら、暗号資産を持つ理由って何でしたっけ」。ここ数週間、相談の場でいちばん多く投げられた質問がこれです。答えに詰まる質問ではないのですが、一言で片づけられる話でもありません。そして今日の相場は、まさにその問いがそのまま値動きに出たような一日でした。
10月9日18時57分時点で、ビットコイン(BTC)は8万2,594ドル。24時間で0.5%安、1週間で4.4%安です。昨夜は一時8万383ドルまで沈み、約1カ月ぶりの安値をつけました。そこからは戻しています。ただ直近高値の8万7,000ドル近辺からは8%ほど下。戻したというより、下げ止まっているという表現のほうが実態に近いかもしれません。
日中のアジア市場:日経は3日続落、香港は反発
日経平均は6万9,030円92銭で引けました。前日比11円19銭安の3日続落。もっとも朝は393円安の6万8,648円で始まっており、そこからじわじわ買い戻された形です。TOPIXは13.35ポイント高の4,104.81でプラス。下がった銘柄より上がった銘柄のほうが多かったということになります。前日8日に993円下げた反動もあったのでしょう。ファーストリテイリングが2027年8月期の最終利益を過去最高の5,600億円見通しに置きながら市場予想に届かず売られたこと、OpenAIの年換算売上が従来推計を下回ったとの報道が、AI・半導体関連の重しでした。
アジアでは香港が目立ちました。ハンセン指数は1.79%高の2万4,211.35で3日ぶりの反発。原油高の一服と米金利の低下が買い戻しにつながったと伝えられています。上海総合指数は0.05%高の3,813.79で、日中は約2カ月半ぶりの安値をつけてから戻しました。
ドル円は157円台後半。8日のニューヨーク時間に一時158円36銭まで上げたあと反落し、今日の予想レンジは157円20銭〜158円60銭。日米ともに3連休を控え、積極的な売買は手控えられているという見方です。原油は少しややこしくて、WTIは8日に3.6%上昇し日中94ドル台まで買われたあと91〜92ドル台で引けました(集計元により終値は91.49〜92.70ドルと幅があります)。一方ブレントは一時105ドル超と報じられており、ホルムズ海峡でのタンカー攻撃と航行船舶の減少が、産地に近いブレント側に強く効いている構図だと思われます。
暗号資産:清算11億ドルのあとの静けさ
イーサリアム(ETH)は2,501ドル。24時間で2.5%安、1週間で9.0%安と、BTCより下げがきついです。暗号資産全体の時価総額は2.79兆ドルで、1週間では3.4%減。BTCドミナンスは59.47%まで上がり、資金はアルトコインからBTCへ戻る動きが優勢です。
昨夜の下げでは24時間の強制清算が11億ドルを超えました。うち約10.5億ドルがロング。CoinGlassの集計ではETHが3.11億ドル、BTCが2.38億ドルという内訳でした。ソラナは9%、XRPとETHは6%前後下げており、高ベータな銘柄が先に売られる典型的な調整です。
その後の数字を見ると、レバレッジはかなり抜けました。無期限先物の平均資金調達率はプラス0.0019%まで低下し、24時間で67%の減少。買い方の過熱は、少なくとも料金ベースではほぼ消えています。一方で建玉は4,272億ドルと1週間で10.0%増。価格が下がって建玉が増えているので、新規参入には売り方もそれなりに含まれているはずです。CMCのFear & Greed指数は56。1週間前は67、1カ月前は71でしたから、「欲」から「中立」へ下りてきた格好です。
日中に出たニュース
CryptoQuantによると、米政府関連として追跡されている保有量が10月6日以降で1万7,468BTC減り、17万4,481BTCになりました。金額では約14.4億ドル。ただし移動=売却ではありません。カストディの変更かもしれない。ここは確認できていないので断定は避けます。
MARAは8日、996BTC(約8,113万ドル)をGalaxy Digital宛に送金しました。これも売却が確認されたわけではありません。もっとも同社の保有量は2月26日の5万3,822BTCから8月7日の3万5,577BTCへ減っており、3月には1万5,133BTCを約11億ドルで売って転換社債の買い戻しに充てています。AI・高性能計算インフラへの資本配分シフトという文脈では、素直に読めば売り方向でしょう。
もう一つ、古くて新しい話。Glassnodeは、公開鍵がすでにチェーン上で見える状態にあるBTCが626万枚、総供給の31.2%(5,000億ドル超)に達したと報告しました。2021年初めの24.8%から上昇しており、主因はアドレスの再利用(433万BTC)です。イーサリアム財団のJustin Drake氏が「AIで数学が加速すれば、最悪のケースでは量子コンピュータの到来より早く、年単位ではなく月単位でECDSAが破られうる」と警告したことで話題になりました。一方Vitalik Buterin氏は8日、「今日あわてて新しいウォレットへ資金を移す必要はない」と述べています。急いだ移管の設定ミスで失うほうが現実的なリスクだ、という趣旨です。私もこの整理が妥当だと思います。
ETFは資金流出が続いています。BTC現物ETFは7日に4.85億ドル、8日に2.44億ドルの純流出。8日に流入したのはフランクリンのEZBCだけでした。ETH現物ETFは7日連続の流出。ETH ETFの流出は10月に入ってから目立っていましたが、今週はBTC側にも広がった形です。
テーマ深掘り:長期金利5.2%、「無リスクで5%」が効いてくる局面
今日の暗号資産の重さを一つの要因で説明するなら、金利でしょう。米10年債利回りは8日に一時5.3%台をつけ、24年ぶりの高水準になりました。終値は5.2268%、2年債は4.7577%です。冒頭の相談者の言葉そのままの環境だということになります。
背景は二つ。7日公表のFOMC議事要旨では、大半の当局者が年内にもう一度の利上げが適切になりそうだとの見方を示していました。そして8日、ウォラーFRB理事がイスタンブールの経済フォーラムで「指標が予想どおりに推移すれば、インフレを2%目標へより早く戻すために追加利上げが必要になる」と述べています。連続する会合で実施する必要はないが、妥当な期間内にやるべきだ、という言い方でした。先物市場の織り込みは10月27〜28日のFOMCで約17%、12月までに1回入る確率が約81%(8日時点、ロイター報道)。現在のFF金利誘導目標は3.75〜4.00%で、9月に引き上げられたばかりです。10月初めは利上げ観測が16%台まで下がっていたのですが、年末までの織り込みは着実に積み上がってきました。
では、相談を受ける立場からこれをどう扱うか。まず機会費用の話は避けられません。無リスク資産で5%超の名目利回りが取れる環境では、キャッシュフローを生まない資産の相対的な魅力は確実に下がります。感情論ではなく割引率の算術です。暗号資産に限らず、金も無配当のグロース株も同じ力を受けています。この1年でBTCが32%下落しているのは、半分くらいはこの話だと思っています。
ただ、そこで終わると片側しか見ていません。5%は名目です。利上げが議論されているのは、インフレが2%目標に戻っていないから。実質で見た5%の価値は、名目の数字が与える安心感よりは小さい。相関も固定されていません。State Streetが10月に公表した調査では、300社の運用機関・アセットオーナーなどのうち約51%が「5年以内にデジタル資産は主流化する」と回答しました。2024年の11%からの変化です。金利高が短期の重しになることと、長期の配分トレンドが進むことは、矛盾なく同時に起こりえます。
私が相談の場で実際にしている整理はこうです。生活防衛資金と5年以内に使う予定のお金は、いま金利が付く場所に置く。これは明快に正解だと言えます。一方で暗号資産の配分は、金利が5%だから下げる・3%に戻ったら上げる、という調整の対象にしない。もともと「全体の数%までで、なくなっても生活が変わらない範囲」として決めた枠なら、金利水準で動かす理由はあまりないはずです。金利で配分を上下させはじめると、たいてい高値で増やして安値で減らすことになります。
とはいえ、ここは正直わかりません。年内に追加利上げが入り長期金利がさらに上がるなら、調整は今より深くなるでしょう。CryptoQuantは短期保有者の実現価格である7万4,600ドルを節目として挙げています。逆に来週のCPIが落ち着いて利上げ観測が後退すれば、8万8,000ドル近辺までの戻りも十分考えられます。どちらに転んでも困らない配分にしておく、というのが結局いちばん実務的な答えです。
今夜の米国市場と来週
今夜は日本時間23時に米10月ミシガン大学消費者態度指数・速報値。市場予想は47.6、前回48.1で、予想どおりなら3カ月連続の低下です。直近2カ月は結果が予想を下回っており、同じ傾向が続けばドルが売られる可能性があると指摘されています。ただ反応は限定的との見方が多く、関心はすでに来週のCPIに移っています。
もう一つ、意識しておきたい日付。明日10月10日は2025年のフラッシュクラッシュからちょうど1年です。あのときBTCは約12万2,000ドルから10万5,000ドルまで、その多くを数分で失いました。米国時間の金曜夜、板が薄い時間帯でした。今年も金曜夜で、日本は3連休。清算が11億ドル出た直後でレバレッジは落ちていますから、同じ規模の連鎖が起きる地合いではないと思います。ただ薄い板で大口が動けば振れ幅は大きくなる。連休中に値動きを追えない方は、レバレッジを畳んでおくか、少なくとも証拠金に余裕を持たせておくのが無難でしょう。
来週は14日に米9月CPIとASML決算、15日にTSMC決算、16日に植田日銀総裁の全国信用組合大会での挨拶(内田副総裁が代読)。日銀は9月に政策金利を1.25%へ引き上げています。日経平均のレンジはサポートが6万7,500〜6万8,000円、レジスタンスが7万円、その上が7万1,000円近辺とみられています。今朝の記事でも触れましたが、ETFの流出が止まるタイミングと価格の底は、だいたい近いところで重なります。7日夕に書いた原油と金利の重しは、今週を通して解けていません。
年内の実務面では、暗号資産の年内やることリストも合わせて確認しておいてください。損益の確定や居住地国の届出には期限があります。相場を見ている間に期日が過ぎる、というのが毎年いちばん多い失敗です。
情報の出典(2026年10月9日確認)
- 日本経済新聞「日経平均株価、小幅に3日続落 終値は11円安の6万9030円」
- 外為どっとコム「来週の日経平均見通し(10/12〜10/16)」
- 外為どっとコム トゥデイ 2026年10月9日号(ドル円・米金利)
- みんかぶFX「10月の米ミシガン大学消費者信頼感速報値」
- みんかぶFX「香港株 ハンセン指数は1.79%高で取引終了」
- 財経新聞「米利上げ、年内もう1回が焦点 FRBウォラー理事」
- OANDA証券「FOMCとは|開催日程や今後の見通し」(2026年10月更新)
- OANDA証券「WTI原油見通し(2026年10月9日)」
- CoinDesk「MARA transfers $81.1 million in bitcoin to Galaxy Digital」
- Bitcoin.com「Glassnode: Over $500B in Bitcoin Is Sitting Behind Keys Anyone Can Read」
- JinaCoin「10/7 仮想通貨ETF動向」
- 価格・時価総額・建玉・資金調達率・Fear & Greed指数:CoinMarketCap(2026年10月9日18時57分JST時点)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産・金融商品の取得や売却を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本が保証された商品ではありません。預金保険制度の対象外であり、取引所の破綻やハッキング、秘密鍵の喪失によって資産の全部または一部を失う可能性があります。
記事中の価格・指標・制度に関する記載は執筆時点で確認できた情報に基づいていますが、その後の変更や誤りの可能性を排除できません。投資判断はご自身の責任で行ってください。暗号資産の損益計算や確定申告の取扱いは個別事情によって結論が変わりますので、個別の税務判断については必ず税理士にご相談ください。
(執筆:あきFP/CFP認定者・IFA)


