主要マーケット動向
ビットコインは8万3,443ドル。24時間では+0.6%で、ほぼ動いていません。ただ1週間では-2.9%、30日では+8.2%。見る窓の長さで印象がまるで変わる、典型的なレンジ相場の数字です。
イーサリアムは2,525ドルで+0.7%。こちらは7日間で-6.6%と、BTCより明確に弱い。全体の時価総額は2.82兆ドル(7日間で-2.5%)。ビットコインドミナンスは59.44%で、1週間前の58.9%からは上昇しています。
週末らしく中身は薄かった。現物出来高は866.8億ドルで24時間-60.7%、未決済建玉も3,734.8億ドルへ-4.4%。平均ファンディングレートはわずかにマイナス圏(-0.00014%)で、先物にロングが積み上がっている状態ではありません。BTCの24時間清算額は2,366万ドル。直近1週間の6.99億ドルと比べれば、ほとんど何も起きていないに等しい。Fear & Greed指数は57で「中立」。1週間前は70の「強欲」でした。この2週間で、市場の体温だけが静かに下がったことになります。
前週末(9日)の米国市場は反発。ダウ51,654.95ドル(+0.83%)、S&P500は7,811.54(+0.59%)、ナスダック総合27,366.17(+0.64%)。前日にAI株を売らせたOpenAIの収益懸念が、「年末までに年換算売上700億ドル規模」との報道で和らいだ、という整理です。ただ長期金利は下がっていません。米10年債利回りは5.24%前後、週内には約24年ぶりの5.36%まで乗せました。30年は5.7%台、ドル円は158円台、ブレント原油は104.72ドル。
気になったのはミシガン大学の消費者信頼感指数10月速報で46.3。前月の48.1からさらに悪化し、それでいて1年先の期待インフレ率は4.7%に上昇しました。景気の体感は冷えているのに、物価への警戒だけが解けない。いちばん扱いにくい組み合わせです。なお本日12日は日本がスポーツの日、米国もコロンブス・デーで債券市場が休場(株式は通常取引)です。
重要ヘッドライン
- ベッセント米財務長官、イラン関連の暗号資産約10億ドルの差し押さえに言及/8日の講演で「今週、10億ドル相当の暗号資産を差し押さえることになるだろう」と発言。保管場所は把握済みだとしています。同氏は5月にも約10億ドルの差し押さえを公表しており、今回がその追加分なのかは現時点ではっきりしません。
- 10月のETF資金流出が約10億ドルに/月初7営業日で米ビットコイン現物ETFが3.86億ドル、イーサリアム現物ETFが6.35億ドルの純流出。7日の4.85億ドル流出はBTCとして6月以来の最大でした。9日に2,110万ドルの流入が入りましたが赤字を消すには届かず。ソラナETFも14週続いた連続流入が途切れています。
- CFTCとSECが共同解釈を公表/5日、ビットコイン・イーサリアム・XRPは原則として証券に当たらない、との整合的な見解を示しました。あわせてCFTCのセリグ委員長が、個人向けレバレッジ取引を扱う取引所向けの新登録区分「crypto market」の構想に言及しています。
- メタプラネットが資本配分方針を改定/5日、総資産の85〜90%をビットコイン、10〜15%を戦略投資に充てる方針へ。6日には米ゲーム広告のSuper Leagueが、2,100BTCの拠出で子会社化される取引への株主承認を求める書簡を公表しました。
- タイが暗号資産ETFの新規制を公布/11項目の要件を定め16日施行。当初はビットコインとイーサリアムのみを投資対象として認める設計です。
テーマ深掘り:国家が「ウォレットを掴む」時代に、自己保管の意味を考え直す
今朝いちばん考えさせられたのは、ベッセント財務長官の言い方でした。5月の差し押さえを振り返って、同氏は「ウォレットをそのまま掴んだ」と表現しています。口座を凍結する、という従来の比喩ではありません。鍵ごと取り上げた、という話です。
この執行がどこまで実務として回っているかは、数字を見ると見当がつきます。Tetherは2026年に入ってイラン関連のUSDTを約5.5億ドル凍結しました。4月に3.44億ドル超、7月にTRON上の4アドレスで1.30億ドル超。いずれも米当局からウォレット情報の提供を受けた後の対応です。同社は2023年以降に30億USDT超をブロックし、連携先は62の地域の310を超える法執行機関に及びます。
ここで分けて考えたいのは、「凍結できる資産」と「できない資産」の違いです。USDTやUSDCのような発行者のいるステーブルコインは、発行者が特定のアドレスを無効化できます。技術的にブロックチェーン上に残っていても、発行者の帳簿から切り離された瞬間に価値はゼロになる。つまりこれは、銀行預金と同種のカウンターパーティリスクを持つ資産です。「暗号資産だから誰にも止められない」という説明は、少なくともステーブルコインには当てはまりません。
一方、ビットコインの差し押さえは別のメカニズムで起きます。ネットワーク側に無効化ボタンはないので、当局は秘密鍵そのものを押さえる必要がある。取引所の口座、カストディ業者、押収した端末、本人からの引き渡し。入り口は人と事業者です。だから「ビットコインは止められない」は半分正しくて、半分は誤解を招く。プロトコルは止められないけれど、鍵の置き場所は止められる。
相談を受ける立場から言うと、この区別は投資判断よりむしろ「置き場所の設計」に関わります。ステーブルコインで数百万円を長期に寝かせるのは、利息のつかない、預金保険もない預金を持っているのに近い。制裁に無関係な個人が巻き込まれる確率はきわめて低いものの、発行者の裁量が効く資産だという前提は知っておいたほうがいい。逆に自己保管は発行者リスクを外せますが、鍵の管理リスクが丸ごと自分に移ります。前日のハードウェアウォレット改造端末の件は、まさにその裏側の話でした。どちらが安全かという問いにはあまり意味がなく、どのリスクを自分で引き受けるかの選択だと考えています。
相場への影響は、正直わかりません。10億ドルは全体の時価総額2.82兆ドルの0.04%にも届かず、押収資産が売却されるのか長期保管されるのかも公表されていません。効いてくるのはむしろ、当局が「暗号資産は追跡でき、押収できる」という前提で動き始めた事実のほうでしょう。規制の議論が「禁止するか否か」から「どう執行するか」へ移ったことの表れだと思います。
識者の見方:強気・弱気の両論
強気側。CoinShares(8日のレポート)は、ビットコインのじり高を本格的な上昇に変えるのは金利見通しではなく「財政懸念ヘッジからの資金流入」だと指摘しています。米10年債が5.3%超、30年が5.7%と20年超ぶりの水準にあるのは通常なら逆風ですが、その上昇が財政の持続性への疑念を反映しているなら、ビットコインは普通のリスク資産ではなく「政府が発行する通貨の代替」として見られうる、という論建てです。7月中旬以降の暗号資産ファンドへの流入は累計111億ドル。足元の鈍化は、弱い雇用・粘る物価・財政不安という相反する3つのシグナルによる様子見であって、ファンダメンタルズの悪化ではないとしています。
弱気側。いちばん単純な反論は、資金が実際に出ていることです。10月のETF純流出は約10億ドル。ETHは9営業日連続の流出で、需要の細りがはっきり見えます。Glassnodeは直近の上抜けに実体があるかを「現物出来高とETF買いの回復」で確認すべきだとしていて、その両方がまだ戻っていません。マクロも楽ではない。9月の雇用統計は+2万9千人、失業率4.2%で、10月の利上げ織り込みは3週間で71%から23%へ落ちました。それでも長期金利は下がらない。金融政策で説明がつかない金利高は、リスク資産のバリュエーションにとっていちばん厄介なタイプです。
今後の注目イベント・指標
- 10月12日(月)|日本はスポーツの日で休場。米国はコロンブス・デーで債券市場休場、株式は通常取引。ハマック・クリーブランド連銀総裁の講演。
- 10月13日(火)|日本9月国内企業物価指数、米9月中古住宅販売。JPモルガン、ゴールドマン・サックスなど米大手銀の決算開始。ウォラーFRB理事の講演。
- 10月14日(水)|米9月CPI。今週最大のイベントです。中国の9月物価・貿易統計も同日。バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、ブラックロックの決算。
- 10月15日(木)|米9月PPI、9月小売売上高、フィラデルフィア連銀景況指数。TSMC決算。日銀・小枝審議委員の講演。
- 10月16日(金)|米9月鉱工業生産。ワーシュFRB議長の講演。タイの暗号資産ETF新規制が施行。
- 10月27〜28日|FOMC。11月3日|米中間選挙。CLARITY法案の行方を左右します。
まとめ
週末の相場は、ほとんど何も起きませんでした。出来高が6割落ち、清算もほぼ出ず、ファンディングレートはわずかにマイナス。8万3千ドルという数字だけ見れば落ち着いているようですが、落ち着いているのではなく、誰も動いていないだけです。今日は日米ともに市場インフラが半分休むので、その状態はもう一日続くかもしれません。
本当の判定は水曜のCPIでしょう。10月の利上げ観測はすでに23%まで落ちているので、物価が想定より低ければ金利と株には素直に効くはずです。ただ、ここ数週間の金利上昇は金融政策よりも財政と需給で説明されている部分が大きい。だとするとCPIが良くても金利はあまり下がらない、という展開もありえます。そのときビットコインが売られるのか、通貨の代替として買われるのか——実のところ、今年ずっと決着していない論点です。
そしてもう一つ。ご自身の資産が取引所にあるのか、ステーブルコインなのか、自己保管なのか。相場観より先に、そこを一度書き出してみる価値はあると思います。相場が静かな日は、そういう作業に向いています。
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主な出典:crypto.news/Cointelegraph/The Cryptonomist/CoinPost(CoinShares分析)/CoinPost(週刊まとめ)/外為どっとコム/Newsquawk/KuCoin/価格・時価総額・Fear & Greed指数はCoinMarketCap(10月11日21:56 UTC時点)。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本を大きく下回る可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。筆者はCFP®認定者・IFAですが、本記事は個別の投資助言ではありません。


