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こんにちは、あきFPです。
毎年1月の終わりごろ、同じ相談が増えます。「取引所から年間取引報告書というPDFが届いたんですが、これ、どこをどう使えばいいんでしょうか」。画面を一緒にのぞくと、数字は並んでいる。けれど、そのどれも「もうけ」そのものではありません。手が止まるのは当然だと思います。
今年の年末まで、あと2か月半。相場のほうは今朝お伝えしたとおり、米CPIの上振れでビットコインが8万1千ドル台まで押し戻されたところですが、値動きとは別に、1月に泣かないため今のうちに手を付けておけることがあります。その筆頭が損益計算です。「総平均法」と「移動平均法」の違い、年間取引報告書の読み方、つまずきやすい3点を整理します。
前提:2026年分は、まだ総合課税の雑所得
先に確認しておきます。暗号資産の利益に20.315%の申告分離課税を入れる改正は、2026年7月23日に公布された改正法に盛り込まれました。ただ施行日は公布から1年以内に政令で定めるとされていて、現時点では確定していません。大和総研や辻・本郷税理士法人の解説では、施行が2027年、適用は2028年1月1日以後の譲渡からという読みが有力とされています。
つまり、いま手元にある2026年分の取引は、従来どおり総合課税の雑所得です。給与と合算され、累進税率がかかり、損失が出ても翌年に繰り越せない。詳しくは分離課税改正の全体像をまとめた記事に書いています。なお改正後も、取得価額をどう計算するかという論点は残ります。
評価方法は2つ。放っておくと総平均法になる
所得税では、暗号資産の取得価額の計算方法として「総平均法」と「移動平均法」のどちらかを選びます。根拠は所得税法施行令第119条の3です。
個人の場合、何も届け出なければ総平均法が適用されます。移動平均法を使いたいなら、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を所轄の税務署に出す必要があります。提出期限は、その暗号資産を新たに取得した日(または、すでに持っているものと種類が違う暗号資産を取得した日)の属する年分の確定申告期限まで。2026年に初めてビットコインを買った人なら、2027年3月15日が期限です。2027年3月15日は月曜日なので、そのまま期限になります。
誤解されやすいのですが、この届出に税務署の承認は要りません。出せばその方法が適用されます。承認が必要なのは「あとから変える」ときです。変更には「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を変更したい年の3月15日までに出して承認を受ける必要があり、実務上は現在の方法をおおむね3年は継続していることが求められるとされています。相場が動いたから今年は有利なほうに、という使い分けはできません。
数字で見ると、違いは「どの年に出るか」だけ
言葉だけだとわかりにくいので、極端な例で。
- 1月:ビットコイン1枚を1,000万円で購入
- 5月:ビットコイン1枚を1,300万円で売却
- 10月:ビットコイン1枚を1,600万円で購入
- 年末:ビットコイン1枚を保有
移動平均法では、売った5月の時点で持っていたのは1,000万円で買った1枚だけ。だから利益は1,300万円−1,000万円=300万円です。素直ですよね。
総平均法はそうなりません。年間の購入を全部ならします。(1,000万円+1,600万円)÷2枚=1枚あたり1,300万円。売却価額も1,300万円なので、利益はゼロ。5月の売却なのに、10月の買い物が取得単価を押し上げたわけです。
この年だけ見れば300万円の差です。ただ翌年、残った1枚を1,600万円で売ったとしましょう。移動平均法なら取得単価1,600万円で利益ゼロ、総平均法なら取得単価1,300万円で利益300万円。2年合計はどちらも300万円で、きれいに一致します。
結局、違うのは「いくら課税されるか」ではなく「どの年に課税されるか」です。累進税率なので年をまたいだ配分で税額は変わりますが、どちらが得かは年末の相場次第で、事前には決まりません。正直なところ、ここを当てにいくのはおすすめしません。
総平均法の怖さは、12月の買い増しが1月の売却の損益を変えてしまう点です。年の途中で「今年はこれくらいの利益だな」と当たりをつけたい人には、移動平均法のほうが感覚に合います。ただし移動平均法は取引のたびに単価を更新する必要があり、回数が多い人ほど記録の負担が重くなります。
年間取引報告書の読み方
年間取引報告書は、国内の暗号資産交換業者が利用者に交付している書類です。法律で義務づけられたものではなく、内閣府の税制調査会資料によれば、国税庁が日本暗号資産取引業協会(JVCEA)を通じて交付を依頼している、という位置づけになっています。多くの取引所では1月中にマイページから電子交付される形です。
載っている主な項目を整理しておきます。
- 年始数量:その年の1月1日時点の残高
- 年中購入数量・年中購入金額:その年に買った数量と金額
- 年中売却数量・年中売却金額:その年に売った数量と金額
- 移入数量:購入以外で口座に入ってきた数量(外部ウォレットからの送金など)
- 移出数量:売却以外で口座から出ていった数量
- 年末数量:12月31日時点の残高
- 支払手数料:売買や出金で払った手数料
- 無償で取得した暗号資産:キャンペーン等で得た数量と金額
国税庁は確定申告用に「暗号資産の計算書」をExcelで公開していて、総平均法用と移動平均法用の2種類があります。年間取引報告書をそのまま転記して使う前提で作られているのは総平均法用のほうです。報告書は年単位の集計なので、取引ごとの単価更新が必要な移動平均法とは、そもそも相性がよくありません。移動平均法を選ぶなら取引履歴のCSVから組み直すことになります。
なお2026年1月5日公表の更新で、国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」の所得区分に関する設問が改訂されています。制度が大きく変わったわけではありませんが、申告前に最新版を見ておく価値はあります。
つまずきやすい3点
1. 暗号資産同士の交換も、売却と同じ扱い
いちばん多い勘違いがこれです。ビットコインでイーサリアムを買った。日本円には一度もしていない。だから課税されない——そうはなりません。
国税庁の見解では、暗号資産を他の暗号資産と交換した時点で、いったん時価で売却したものとして損益を認識します。アルトコインを頻繁に乗り換えている人は、円に出していなくても利益が積み上がっている可能性があります。「円にしていないので申告不要だと思っていた」という方は、毎年いらっしゃいます。
2. 移入・移出があると、1社の報告書では完結しない
報告書に出てくる「年始数量」の取得価額は書かれていません。前年までに買った分の原価は、自分で引き継ぐ必要があります。移入・移出も同じです。A社で買ったビットコインをB社に送って売った場合、A社の報告書には売却が載らず、B社の報告書には取得価額が載らない。両方を突き合わせないと正しい原価が出ません。DeFiやNFT、海外取引所を使っている人は、そもそも報告書が存在しない取引が混ざります。
3. 「20万円以下だから申告不要」は半分だけ正しい
給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいる会社員の場合、給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要です。ただしこれは所得税の話で、住民税の申告は別に必要になります。また医療費控除やふるさと納税のワンストップ特例を使わず確定申告をする場合は、20万円以下の雑所得も申告書に含めることになります。「20万円以下=何もしなくていい」ではない、というのは押さえておきたいところです。
手計算が破綻する線はどこか
ひとつの取引所で、現物を数回売買しただけ。これなら国税庁の計算書で十分です。無理にツールを入れる必要はありません。
破綻しやすいのは、次のどれかに当てはまったときです。取引所が2社以上ある。暗号資産同士の交換をしている。海外取引所やDeFiを使っている。ステーキングやレンディングの報酬がある。年間の取引回数が数十件を超える。このあたりから、表計算ソフトでの手作業は現実的に厳しくなります。
損益計算ツールを使うのもひとつの手です。国内ではクリプタクト(運営は株式会社pafin)が代表的で、bitFlyerなど複数の取引所と業務提携しており、取引履歴をアップロードすると自動で損益を計算してくれます。無料プランもあるので、自分の取引件数で足りるか試してみるのがいいと思います。
ただし、bitFlyer自身が案内しているとおり、ツールの計算結果は処理手順の違いで差異が生じることがあります。入れれば終わり、ではありません。桁が合っているか、抜けている取引所がないか。その検算の一手間は残ります。確定申告の責任は、どこまでいっても本人にあります。
年内にやっておくと楽になること
優先順位の高い順に3つ。使っている取引所とウォレットを全部書き出すこと。これだけで1月の作業が半分くらい軽くなります。次に、海外取引所の履歴を先にダウンロードしておくこと。サービス終了やAPI変更で、あとから取れなくなる例が実際にあります。最後に、移入・移出のメモ。「いつ、どこから、どこへ、いくつ送ったか」が残っていると、原価の引き継ぎがかなり楽です。
そして今年の損失は翌年に繰り越せません。含み損を年内に処理して利益と相殺するかどうかは、相場観ではなく税額で考える余地があります。年内やることリストの記事に居住地国の届出期限なども含めてまとめてあるほか、基礎から確認したい方は暗号資産の税金と確定申告の基本もどうぞ。
結局、どちらを選ぶべきか
CFP認定者として相談を受ける立場からの、正直な結論を書きます。
大半の方は、総平均法のまま(=何も届け出ない)で問題ありません。年間取引報告書と計算書の様式が総平均法前提であること、変更には承認と3年の継続が必要で機動的に使い分けられないこと、通常の取引パターンでは長期的な税額差がそれほど大きくならないこと。この3つが理由です。
移動平均法を検討する価値があるのは、年の途中で所得をある程度確定させたい人。ふるさと納税の上限を年内に見積もりたい、税率の階段を意識したい、といったニーズがあるなら選ぶ理由になります。ただし取引履歴を自前で管理する前提なので、ツールとセットで考えたほうがいいでしょう。
どちらを選んでも、記録が残っていなければ正しい申告はできません。方法の選択より、履歴を取っておくことのほうがずっと重要です。地味ですが、1月に困らない準備としてはこれが一番効きます。
情報の出典(2026年10月15日確認)
- 国税庁「A1-20 所得税の暗号資産の評価方法の届出手続」(提出期限、届出がない場合は総平均法、所得税法施行令第119条の3)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和7年12月)」(年間取引報告書を用いる場合は総平均法用の計算書)
- 国税庁「暗号資産の計算書(移動平均法用)」様式(PDF)
- 内閣府 税制調査会 納税環境整備に関する専門家会合 資料(PDF/JVCEAを通じた年間取引報告書の交付依頼)
- BitTrade「年間取引報告書の見方について」(記載項目、年始残高の取得価額は自己計算)
- bitFlyer「暗号資産損益計算サービスは利用できますか。」(pafinとの業務提携、計算結果の差異に関する注意)
- 辻・本郷 税理士法人「仮想通貨の分離課税はいつから?」(令和8年度改正、20.315%、適用時期)
- 大和総研「暗号資産取引に20%の申告分離課税導入へ」(2026年2月6日)
- カオーリア会計事務所「総平均法と移動平均法はどっちが得?」(変更承認申請、継続適用の実務)
- 価格データ:CoinMarketCap(2026年10月15日19時時点、BTC 81,160ドル/ETH 2,372ドル)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や金融商品の取得・売却を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本が保証された商品ではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
また、税制および各社のサービス内容は変更される場合があります。記事中の内容は2026年10月15日時点で公表されている情報に基づいており、その後の改正等を反映していない可能性があります。ご自身の取引に関する具体的な税務上の取扱い、評価方法の選択、申告の要否などの個別判断については、所轄の税務署または税理士にご相談ください。


