クラリティ法案、上院銀行委員会を通過 ― 米要人の発言で読む暗号資産規制の最新動向(2026年5月)

米国の暗号資産(仮想通貨)規制の枠組みを根本から作り替える「クラリティ法案(CLARITY Act/デジタル資産市場構造法 2025)」が、2026年5月14日に上院銀行委員会を超党派の賛成多数で通過した。本会議での可決と大統領署名に向けてヤマ場を迎えている一方、ステーブルコインの利回りや大統領一族の利益相反をめぐる対立が依然として残る。本記事では、法案の中身、これまでの経緯、そして財務長官・SEC委員長・上院議員・大手銀行CEOら米国の要人発言を交えながら、最新の状況を専門的に整理する。

クラリティ法案(CLARITY Act)とは何か

クラリティ法案の正式名称は「Digital Asset Market Clarity Act of 2025(デジタル資産市場明確化法/H.R.3633)」。2025年5月29日に下院金融サービス委員会のフレンチ・ヒル委員長らが提出した、暗号資産の「市場構造(マーケットストラクチャー)」を定める包括的な規制法案である。

この法案が解決を目指すのは、米国の暗号資産業界が長年抱えてきた「どの当局が何を規制するのか」という管轄の曖昧さだ。これまで証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の双方が重複して権限を主張し、企業はグレーゾーンでの運営を強いられてきた。クラリティ法案はこの境界線を明確に引き直すことを核としている。

  • CFTC(商品先物取引委員会)に、「デジタル商品(digital commodity)」の現物市場に対する排他的管轄権を付与する。
  • SEC(証券取引委員会)は、投資契約に該当する資産(investment contract assets)への管轄を維持する。
  • デジタル商品の取引所・ブローカー・ディーラーに対し、CFTCの管轄下で登録制度を新設する。
  • このほか、違法金融対策、DeFi(分散型金融)、ステーブルコインの利回り規制、トークン化基準、開発者保護、顧客資産・破産時の保護など、広範な論点を網羅する。

2025年7月17日、下院は同法案を賛成294対反対134で可決した。共和党216名に加え、民主党からも78名が賛成に回る超党派の結果であり、米議会の一院を通過した暗号資産規制法案としては史上最も包括的なものとなった。その後、舞台は上院へと移っている。

2026年5月14日、上院銀行委員会を15対9で通過

2026年5月14日、上院銀行委員会はクラリティ法案を賛成15対反対9で可決し、本会議(フロア)へと送付した。採決はおおむね党派に沿ったものだったが、民主党のルベン・ガレゴ議員(アリゾナ州)とアンジェラ・アルソブルックス議員(メリーランド州)が共和党側に合流し、超党派の体裁を保った。

委員長のティム・スコット議員(共和党・サウスカロライナ州)は、可決を受けた声明でこう述べている。

「本日、銀行委員会はワシントンがいまだに協力できることを米国民に示した。我々は真剣な議論を重ね、現実の相違点を乗り越え、消費者を保護し、イノベーションを支え、金融の未来を米国に留めるという共通の目標のもとに結集した。この法案はデジタル資産を、明確なルール、より強固なセーフガード、そして悪質な行為者を止めるためのより良い手段とともに、日の当たる場所へと導くものだ。」

ティム・スコット 上院銀行委員長(2026年5月14日 声明)

スコット委員長はまた、「上院版クラリティ法案は、確実性・安全策・説明責任をもたらすと同時に、メインストリート(一般市民・中小事業者)を保護し、国家安全保障を強化し、イノベーションを米国に留める」とも強調している。

規制当局も「クラリティ」へ — SEC・CFTCの動き

立法と並行して、規制当局も歩調を合わせている。2026年3月17日、SECはCFTCと協調し、連邦証券法が暗号資産にどのように適用されるかを示す解釈指針を公表した。SEC委員長のポール・アトキンス氏は次のように述べている。

「これこそ規制当局が果たすべき役割だ。明確な言葉で、明確な線を引くことだ。」「ほとんどの暗号資産はそれ自体が証券ではない」「投資契約には終わりが来ることもある」

ポール・アトキンス SEC委員長(2026年3月)

アトキンス委員長は、この解釈指針を「終わりではなく始まりだ」と位置づけ、SECがクラリティ法案など議会の取り組みを大きく踏まえた、より広範な適用免除規則(exemptive rulemaking)の策定を進めていることを明らかにした。さらに2026年5月28日には、CFTCがKalshiおよびCoinbaseに対し、暗号資産の無期限先物(パーペチュアル)契約を初めて承認しており、行政府レベルでも市場整備が前進している。

最大の対立点① ステーブルコインの利回り — 銀行業界 vs 暗号資産業界

法案成立に向けた最大の障害の一つが、ステーブルコインの「報酬(利回り)」をめぐる対立だ。2026年3月20日、トム・ティリス議員(共和党・ノースカロライナ州)とアルソブルックス議員(民主党・メリーランド州)が、ホワイトハウスの後押しを受けてステーブルコイン報酬に関する基本合意(ティリス=アルソブルックス合意)に達した。これにより、暗号資産企業が一定の報酬プログラムを提供できる余地が残された。

しかし米国銀行協会(ABA)をはじめとする銀行業界は、利回りを生むステーブルコインが預金保険の付いた銀行預金の代替となり、預金が流出して金融システムの安定を損なうと反発。条文の厳格化を求めてロビー活動を強めている。

この対立は2026年5月29日、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOがFOXビジネスの番組で現行の法案草案に明確な不満を示したことで一段とヒートアップした。

「ノーだ。なぜなら、この法案はステーブルコインなどを通じて、本来あるべき保護なしに事実上の預金利息を支払うことを認めているからだ。銀行業界はそのままでは受け入れない。……仮にそうなったとしても、私は一切関わらないし、いずれ破綻する(eventually blow up)。」

ジェイミー・ダイモン JPモルガン・チェースCEO(2026年5月29日 FOXビジネス)

一方、CoinbaseのブライアンアームストロングCEOらは、伝統的銀行が自らの預金ビジネスモデルを守るためにステーブルコイン報酬プログラムを抑え込もうとしている、と主張。銀行側は「銀行のような商品を提供するなら、同等の監督と規制義務を負うべきだ」と反論しており、両者の溝は深い。バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEOがアームストロング氏に「銀行になりたいなら、ただ銀行になればいい」と語ったと報じられるなど、ウォール街と暗号資産業界の緊張は数カ月にわたり続いている。

最大の対立点② 倫理条項 — トランプ一族の利益相反

もう一つの大きな火種が、政府高官の利益相反を防ぐ「倫理条項(ethics provision)」だ。民主党は、暗号資産の規制緩和を進める当の大統領とその一族が、$TRUMPや$MELANIAといったミームトークンなどを通じて暗号資産から直接利益を得ている点を問題視。現職政府高官が暗号資産業界とのビジネス関係から利益を得ることを禁じる条項を要求している。

キルステン・ジリブランド議員(民主党)は、この倫理条項なしに法案を上院で通過させることはできないとの立場を明確にしている。一方、ホワイトハウスは大統領の暗号資産関連の利益を狙った条項を容認しない姿勢を繰り返し示しており、シンシア・ルミス議員(共和党・ワイオミング州)は次のように述べている。

「大統領は我々が取り組んでいるクラリティ法案を理念としては支持しているが、もしこの法案が彼個人を叩く棍棒として使われるのであれば、ためらいなく拒否権を発動するだろう。」

シンシア・ルミス 上院議員(共和党・ワイオミング州)

この倫理条項こそが、本会議での採決に向けた最大のつまずきの石になっている。「暗号資産業界にとって最も強力な政治的同盟者(=大統領)が、同時に最大の立法上の足かせになっている」という皮肉な構図が、法案の行方を不透明にしている。

政権の圧力と「7月4日」の期限

トランプ政権は、暗号資産の市場構造法を独立記念日(7月4日)までに成立させたいとの意向を公に表明している。財務長官のスコット・ベッセント氏はウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で議会に行動を促し、2026年4月9日には「いまこそ(上院)銀行委員会の共和党はマークアップ(条文審議)を行い、クラリティ法案をトランプ大統領の机に届けるときだ」と投稿した。ビル・ハガティ議員(共和党・テネシー州)も、法案が近く本会議に到達するとの見通しを示している。

もっとも、ステーブルコイン利回りの対立、倫理条項、法執行機関の懸念などが解消されなければ、7月4日の署名目標を逃し、2026年の中間選挙の先まで成立がずれ込む可能性も指摘されている。

今後のスケジュールと見通し

現在、上院銀行委員会版と、別途可決された上院農業委員会版の2つの法案を一本化する作業が進められている。これは本会議での審議に進むための重要なステップだ。法案が最終的に法律となるには、上院本会議と下院の双方を通過し、大統領が署名する必要がある。ジリブランド議員は、採決はおそらく8月までに行われる必要があるとの見方を示している。

日本の投資家・事業者への示唆

クラリティ法案は米国の国内法だが、その影響は国境を越える。SECとCFTCの管轄が明確化されれば、米国市場における暗号資産の上場・取引の予見可能性が高まり、機関投資家の参入が一段と進む可能性がある。ステーブルコインの利回り規制の行方は、ドル建てステーブルコインの設計や利回り提供のあり方を左右し、日本国内の取引所やステーブルコイン関連サービスにも間接的な影響を及ぼしうる。法案の最終的な条文がどう着地するかは、グローバルな暗号資産市場の規制トレンドを占う上で引き続き注視すべきテーマだ。

まとめ

  • クラリティ法案(H.R.3633)は2025年7月に下院を294対134で通過し、2026年5月14日に上院銀行委員会を15対9で可決した。
  • 核心は、CFTCにデジタル商品の現物市場の排他的管轄を、SECに投資契約資産の管轄を割り当てる「管轄の明確化」。
  • 最大の対立点は「ステーブルコインの利回り(銀行業界 vs 暗号資産業界)」と「大統領一族の利益相反を防ぐ倫理条項」の2つ。
  • 政権は7月4日までの成立を目指すが、対立の解消が遅れれば中間選挙後にずれ込むリスクがある。

※本記事は2026年5月31日時点の公開情報に基づくものであり、法案の内容や審議状況は今後変更される可能性があります。投資判断は自己責任で行ってください。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。

主な出典

  • U.S. Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs「Chairman Scott, Senate Banking Committee Advance Clarity Act in Historic Bipartisan Vote」(2026年5月14日)
  • CoinDesk「’The banks will not accept it’: Dimon escalates battle over stablecoin rewards in CLARITY Act debate」(2026年5月29日)
  • CNBC「Crypto industry scores win as Clarity Act regulation bill clears Senate hurdle」(2026年5月14日)
  • SEC.gov / CFTC.gov 公表資料(2026年3月)、Congress.gov H.R.3633 法案テキスト

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