上半期最終日の夕、アジア時間のビットコイン(BTC)は960万円台へ小幅に持ち直し、朝方の重さからはひとまず一服した。手掛かりとなったのは、米ストラテジー(旧マイクロストラテジー)が前日に打ち出した約20億ドル規模の自社株買いと、保有ビットコインを「動かせる資本」として運用する新方針だ。MSTR株が時間外で急伸し、市場心理を一時的に和らげた。一方で、日付が変わる7月1日にはEUの包括規制「MiCA」が全面適用を迎え、欧州の暗号資産事業は不可逆の節目に入る。本稿(夕刊)では、朝刊で触れた論点の「続報・更新分」を中心に、ストラテジーの戦略転換、リップルCEOの異論、MiCA当日の最終情勢、そして今夜以降のマクロ指標までを整理する。
主要マーケット動向:BTCは960万円台へ反発、ただし「極度の恐怖」は続く
国内最大手メディアCoinPostの価格データによると、2026年6月30日夕(JST)時点でビットコインは1BTC=約960万1,000円、前日比でおよそ1.0%高と、朝方の弱含みから小幅に反発した。イーサリアム(ETH)も約25万3,000円と前日比0.4%高で、主要アルトのソラナ(SOL)は約1万1,480円、リップル(XRP)は約169円で推移している(CoinPost)。米ドル建てではBTCはおよそ5万9,600ドル前後にあたり、前夜の米国市場で確認された5万9,000ドル台後半の水準を概ね維持した(Fortune)。
もっとも、反発の力強さは限定的だ。市場心理を示す「Crypto Fear & Greed Index(恐怖・強欲指数)」は週末以降10台前半の「極度の恐怖(Extreme Fear)」圏に沈んだままで、戻りは「悪材料一服による値ごろ買い」の域を出ていない。6月29日が四半期末・上半期末にあたり、薄商いのなかでのリバランスも価格を不安定にしている。BTCは第2四半期を下落で終える見通しで、年初来ではおよそ3割安という記録的な不振のまま上半期を締めくくる公算が大きい点は、朝刊で詳報したとおりだ。
夕方時点で相場を動かした最大の材料は、後述するストラテジーの新方針だった。長期保有勢の象徴的存在が「保有ビットコインの一部売却」に道を開いたことは、強気・弱気の双方に新たな論点を投げかけている。
重要ヘッドライン
ストラテジー、20億ドル自社株買いと「ビットコイン売却」解禁――保有方針を転換
マイケル・セイラー会長率いる米ストラテジーは6月29日、保有ビットコインを柔軟な資本として扱う「デジタル・クレジット資本フレームワーク(Digital Credit Capital Framework)」を発表した。柱は、最大12億5,000万ドルのビットコイン・マネタイゼーション(現金化)プログラムと、優先証券・普通株を合わせた総額20億ドルの自社株買い枠の設定だ(CoinDesk、Crypto Briefing)。
これまで同社は「買って保有し続ける」一辺倒で知られてきたが、新方針では保有ビットコインを売却して自社株買いや債務の買い戻し、優先配当の支払いに充てることが可能になる。優先株STRCの年間配当率は12.0%へ引き上げられ、7月1日以降の基準日から適用される。同社の現金準備(USDリザーブ)は6月28日時点で約25億5,000万ドルとされた。発表を受けてMSTR株は時間外取引で一時7%近く上昇した(CoinDesk)。株価がビットコインを下回って割安に放置される「ディスカウント」状態を、自社株買いで是正する狙いがある。
リップルCEO、ストラテジーの「金融工学」に疑問符――STRCは過去最安値
ストラテジーの資金調達手法には、業界内からも慎重な声が上がっている。リップルのブラッド・ガーリングハウスCEOは米CNBCで、同社のビットコイン購入を支える「金融工学(financial engineering)」のあり方に疑問を呈した。優先株STRCは6月26日に過去最安値を更新しており、調査会社クリプトクアントは同社に対しビットコイン購入の停止と現金準備の回復を提言している(CoinPost)。今回の「売却解禁」は、まさにこうした資本構造の弱さに対する同社なりの回答とも読める。長期保有勢の盟主が方針を見直したこと自体が、相場の地合いの弱さを映している。
MiCA、いよいよ明日全面適用――スペイン当局「猶予延長なし」を明言
EUの包括規制「MiCA(暗号資産市場規則)」の移行期間は、日付が変われば終了する。スペイン当局はライセンス未取得業者への猶予延長を明確に否定し、無認可のままEU域内で営業を続ける事業者はサービス停止を迫られることになった(CoinPost)。世界最大手バイナンスは6月24日にギリシャでのライセンス申請を取り下げ、EU域内の一部サービスを停止する見通しだ。一方、コインベース、クラーケン、OKX、Crypto.comなどは認可を取得済みで、「EUパスポート」を武器に下半期へ臨む(crypto.news)。MiCA全体像と国内SBIによる業界再編は朝刊で詳報済みのため、本稿では「期限当日の最終情勢」として更新するにとどめる。
8年保有のイーサリアム「クジラ」が売却開始――含み益は8割超減
オンチェーン市場では、2018年から約8年間イーサリアムを保有し続けてきた複数の大口ウォレット(クジラ)が売却に動いた。ピーク時には1億5,000万ドルを超えた含み益が、足元では約2,740万ドルへと8割超縮小したと伝えられる(CoinPost)。長期保有勢の利益確定は、ETHの上値を抑える需給要因として意識される。短期の地合いの弱さを象徴する動きと言える。
テーマ深堀り:ストラテジーの「方針転換」は何を意味するのか
夕刊で深く掘り下げたいのは、ストラテジーの新方針が持つ意味だ。同社はこれまで、株式や社債で調達した資金でビットコインを買い増し、保有量を増やし続ける「ビットコイン蓄積マシン」として市場の象徴的存在だった。投資家はMSTR株を、レバレッジの効いた「ビットコインの代理保有手段」として扱ってきた側面がある。
今回の「デジタル・クレジット資本フレームワーク」は、その前提を一部修正するものだ。最大12億5,000万ドル分のビットコイン売却を認め、その資金で割安な自社株や優先証券を買い戻す。狙いは、株価がビットコイン保有価値を下回る「ディスカウント」の是正と、12%へ引き上げた優先配当の確実な支払いにある(CoinDesk、Crypto Briefing)。
評価は割れる。前向きに捉えれば、保有ビットコインを「死蔵」させず資本効率を高める合理的な進化であり、株価のディスカウント解消は株主還元につながる。一方で、「決して売らない」という同社の象徴的なナラティブが崩れることへの警戒も根強い。市場が下落する局面で売却枠が実際に行使されれば、需給面の追加的な売り圧力になりかねない、という懸念だ。リップルCEOやクリプトクアントが資本構造に疑問を呈してきた経緯(前掲)を踏まえれば、今回の転換は「強さの証明」というより「環境変化への適応」と位置づけるのが妥当だろう。いずれにせよ、ビットコインを企業財務の中核に据える「トレジャリー企業」モデルの持続可能性を、市場が改めて問い直す契機になっている。
識者の見方:「底入れ」の楽観と「構造要因は未解消」の慎重論
相場観は強気・弱気で大きく割れたままだ。強気派では、アーク・インベストのキャシー・ウッド氏が、政治・経済的に不安定な国からの資本流出が次のビットコイン押し上げ要因になると指摘。AIは技術革命をもたらすが資産保全の「保険」機能は担えないとして、両者の役割の違いを強調した(CoinPost)。ビットコイン推進派のサムソン・モウ氏も「底は付いた」との見方を崩していない(CoinPost)。
一方で慎重派は、記録的なETF資金流出、ストラテジーの資本構造への疑問、AI関連株への資金シフトといった構造要因が解消していない点を重視する。米現物ビットコインETFは6月を「ローンチ以来最悪の月」(純流出約40億ドル超)で終え、終盤も流出基調が続いた(Bloomberg、Farside Investors)。底入れを確認するには、ETFフローの反転という「数字の裏付け」が要る、というのが慎重派の立場だ。本日のアジア時間の反発も、こうした構造要因が変わったことを示すものではない。
今後の注目イベント・指標
下半期入りを前に、マクロ指標が立て込む。まず今夜、米東部時間6月30日10時(JST7月1日0時)に米JOLTS求人件数(5月)が発表される。市場予想は728万件前後で、4月の760万件から鈍化するかが焦点だ。続く7月1日にはユーロ圏インフレ率(6月速報、予想3.0%)、米ADP雇用統計(6月、予想11.8万人)、米ISM製造業景況指数(6月、予想53.7)が並び、同日MiCAが全面適用となるほか、トークン化大手セキュリタイズが7月2日にNYSE上場を予定する(CoinPost)。週の最大の山場は7月2日の米雇用統計(6月)で、非農業部門雇用者数は予想11.4万人、失業率は4.3%が見込まれる。雇用が予想を下回れば利下げ観測が強まり、リスク資産の支援材料になり得る。
まとめ
上半期最終日の夕、ビットコインは960万円台へ小幅に反発したが、市場心理は「極度の恐怖」圏にとどまり、戻りは限定的だ。手掛かりはストラテジーの方針転換で、同社は20億ドルの自社株買いとビットコイン売却の解禁に踏み切り、MSTR株を押し上げた。ただしリップルCEOらは資本構造に疑問を呈し、評価は割れている。日付が変われば欧州ではMiCAが全面適用となり、今夜のJOLTSから週末の米雇用統計まで、下半期の地合いを占う指標が続く。反発の持続力は、これらの「数字」が決める。
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