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「去年ちょっとビットコインで儲かったんですけど、20万円いってないので申告しなくていいんですよね」
毎年かならず受ける質問です。そして半分は正しく、半分は危ない。20万円ルールは、そもそも全員が使えるものではありません。使えない人のほうが、実は身近にいます。
結論
先に答えを書きます。
会社員で、給与の支払先が1か所、年末調整が済んでいて、給与収入が2,000万円以下。この条件がそろっている人なら、暗号資産を含めた「給与所得・退職所得以外の所得」の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告は原則として必要ありません。根拠は所得税法121条で、国税庁も同じ説明をしています。
ただし、ここから先に3つ条件が付きます。
- 住民税は別です。20万円ルールは所得税だけの話で、住民税には同じ規定がありません。所得税の確定申告をしないなら、お住まいの市区町村に住民税の申告をすることになります。
- 会社員以外には20万円ルールがありません。専業主婦(主夫)、学生、無職の方、個人事業主・フリーランス。この人たちの基準は20万円ではなく、所得控除の合計額です。2026年分(令和8年分)なら基礎控除が大きいので、かえって余裕があるケースもあります。
- 20万円は「利益」ではなく「所得」です。売った金額ではありません。取得価額と必要経費を引いたあとの数字です。
以下、順番にほどいていきます。暗号資産の税金そのものの全体像から確認したい方は、先に仮想通貨の税金と確定申告の基本をご覧ください。
そもそも何の20万円なのか
国税庁の令和7年分確定申告特集では、確定申告をしなければならない場合として「1か所から給与の支払を受けていて、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、給与所得や退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える場合」と書かれています。
読み飛ばしがちですが、ここは「暗号資産の所得が20万円」ではありません。給与所得と退職所得を除いた、ほかの所得すべての合計です。
つまり、こういう人は合算されます。
- 暗号資産の売却益が12万円
- フリマアプリの転売で8万円(営利目的の反復売買なら雑所得または事業所得)
- ポイントサイトの収入が3万円
合計23万円。暗号資産だけ見れば20万円以下ですが、合計では超えているので申告が必要です。相談の場でいちばん多い取りこぼしが、これです。
そして「所得」の意味も確認しておきます。暗号資産の雑所得は、ざっくり 売却価額 −(取得価額 + 必要経費) です。100万円で売っても、85万円で買ったものなら所得は15万円。ここを売却総額で見てしまうと、申告が必要だと思い込んで慌てることになります。逆もあります。安い時期に積み立てていたコインを売ると、売却額が小さくても所得は大きく出ます。
年間の取引件数が数十件を超えると、この取得価額の把握が手計算では厳しくなります。とくに取引所をまたいで同じ銘柄を買っている人は、総平均法で1円単位まで合わせるのに半日かかることもあります。ツールを使うなら、無料の範囲でどこまでできるかは先に見ておいたほうがいいです。クリプタクトの無料プランは年間50件を超えると損益の計算結果が表示されない仕様なので、取引が多い人は有料プラン(Basicで年6,600円)が前提になります。払う価値があるかは件数次第で、10件程度なら正直、手計算でも足ります。
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20万円ルールが使えない人
ここが本題です。次のどれかに当てはまる人は、20万円以下でも所得税の確定申告をすることになります。
1. 給与収入が2,000万円を超える人
そもそも年末調整の対象外なので、確定申告が必要です。暗号資産の所得が1万円でも書きます。
2. 2か所以上から給与をもらっている人
副業先からも給与として受け取っている場合、判定式が変わります。国税庁の表現では「年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得や退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える場合」。つまり副業の給与収入そのものが分母に入ります。副業給与が月2万円でも年24万円。これだけで超えます。
3. 年末調整を受けていない人
年の途中で退職してそのまま年を越した方、扶養控除等申告書を出していない方などです。年末調整が前提の制度なので、前提が欠けると使えません。
4. 医療費控除やふるさと納税などで、どうせ確定申告をする人
これはかなり誤解されています。国税庁のQ&Aに、はっきりこう書かれています。
「給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるときは、原則として確定申告を要しないこととされています」――ただしこれは確定申告を要しない場合の規定であり、確定申告を行う場合に20万円以下の所得を申告しなくてよいという意味ではない。
医療費控除で還付を受けるために確定申告書を出すなら、その申告書には20万円以下の暗号資産の所得も書かなければなりません。「還付の申告だけして、暗号資産の5万円は黙っておく」は通りません。ふるさと納税でワンストップ特例を使わず確定申告した年、住宅ローン控除の初年度、同じ話です。
実務でもっとも多い事故です。数千円の還付を取りにいって、結果として暗号資産の所得を申告することになり、かえって税額が増える。還付額より追加の税額が大きいなら、還付申告をしないという選択肢もあります。どの欄に何を書くかは確定申告書等作成コーナーでの入力手順に整理しました。
5. 給与所得者ではない人
20万円ルールは、給与所得者向けの特例です。専業主婦(主夫)、学生、無職の方、個人事業主。この人たちには適用されません。次の見出しで分けて説明します。
6. 年金受給者は別のルール
公的年金等の収入金額が400万円以下で、その全部が源泉徴収の対象であり、公的年金等に係る雑所得以外の所得が20万円以下。この3つすべてに当てはまる場合に申告不要です。年金が400万円を超えていれば、暗号資産の所得が少額でも申告対象になります。
会社員でない人は、いくらからか
こちらの基準は所得税法120条です。言い方は固いのですが、要は所得の合計が所得控除の合計を超えて、税額が出るなら申告です。
そこで効いてくるのが、令和7年度税制改正で引き上げられた基礎控除です。国税庁の資料によると、2026年分(令和8年分)の基礎控除は合計所得金額の区分ごとにこうなっています。
- 合計所得金額132万円以下 … 95万円
- 132万円超336万円以下 … 88万円
- 336万円超489万円以下 … 68万円
- 489万円超655万円以下 … 63万円
- 655万円超2,350万円以下 … 58万円
改正前は一律48万円でした。かなり変わっています。
具体例で見ます。扶養に入っている方で、収入は暗号資産の利益だけ、2026年の雑所得が90万円だったとします。合計所得90万円は132万円以下なので基礎控除は95万円。所得控除のほうが大きいので税額は出ず、所得税の確定申告義務は生じません。改正前の48万円基準なら申告が必要だった水準です。
ただし、ここで安心しないでいただきたいことが3つあります。
ひとつめ。住民税は別です(次の見出しで)。ふたつめ。扶養の判定基準は95万円ではありません。扶養親族の合計所得金額の要件は48万円から58万円に引き上げられましたが、58万円です。90万円の所得があれば扶養から外れ、世帯の税負担が増えます。みっつめ。この95万円は令和7年分・令和8年分の金額です。国税庁の表では令和9年分以後の基礎控除は58万円と記載されています。2027年分も同じと思っていると、来年この時期に計算が狂います。
国民健康保険料も所得に応じて上がります。所得税がゼロでも、手元から出ていくお金はゼロではない。ここはセットで見てください。
住民税には20万円ルールがない
見落とされやすい、というより、ほとんど知られていない部分です。
国税庁のタックスアンサーにも「公的年金等以外の所得金額が20万円以下で確定申告の必要がない場合であっても、住民税の申告が必要な場合があります」と明記されています。自治体側の説明はもっと直接的です。広島市は、住民税の申告が必要な人として「給与所得以外の所得が20万円以下のため所得税の確定申告が不要の人も」と書いています。
つまり、暗号資産で15万円の所得があって所得税の確定申告をしなかった人は、市区町村に住民税の申告をする流れになります。期限は所得税と同じ3月15日です。
さらに、所得税と住民税で控除額がずれている点にも触れておきます。所得税の基礎控除は引き上げられましたが、個人住民税の基礎控除は43万円のまま据え置きです(那覇市など自治体の令和8年度改正の案内で確認できます)。給与所得控除の最低額65万円への引き上げは住民税にも及びますが、基礎控除は動いていません。
住民税が実際にかかるかどうかは非課税限度額で決まり、これは自治体ごとに違います。柏市の令和8年度の案内では、扶養親族のいない単身者の場合、所得割は合計所得45万円以下、均等割は41万5千円以下で非課税です。おおむね45万円前後が分かれ目、という感覚で持っておくと大きく外しません。正確な数字はお住まいの自治体のサイトで確認してください。
申告義務がなくても、申告したほうがいい場面
逆のケースも書いておきます。
年間の損益がマイナスだった年。申告義務はありません。ただし同じ年に他の雑所得(原稿料、アフィリエイト収入など)があるなら、雑所得の中での通算はできます。放置すると、その通算ができません。
一方で、暗号資産の損失を翌年以降に繰り越すことは、現行制度ではできません。上場株式のような3年間の繰越控除は、雑所得にはない仕組みです。12月31日が実質的な期限になります。年内に確認しておくことは年内やることリストにまとめました。
なお、2028年ごろからの申告分離課税20%への移行が議論されていますが、これは令和8年度税制改正大綱の段階の話です。分離課税20%はいつからかで整理していますが、2026年分の申告は現行どおり雑所得・総合課税で考えます。
よくある誤解
「20万円以下なら、何も申告しなくていい」
所得税だけの話です。住民税の申告は残ります。ここを説明すると、たいてい驚かれます。
「含み益が20万円を超えたから申告が必要」
保有しているだけなら所得は発生しません。ただし、円に換えていなくても課税される場面はあります。暗号資産同士の交換、商品の購入、ステーキング報酬の受け取り。国税庁のFAQでも問1-2、問1-3、問1-7で触れられています。詳しくは売っていないのに課税される場面で解説しました。
「取引所が税務署に報告しているから、自分で計算する必要はない」
年間取引報告書は、あくまで自分が計算するための資料です。計算して申告するのは本人です。加えて非居住者の暗号資産取引情報の自動的交換(CARF)の枠組みも動き出しており、情報の流れは細くなっていません。「少額だから見えない」という前提は、以前より成り立ちにくくなっているように思います。
「20万円を1円でも超えたら、超えた分だけ課税」
違います。20万円は申告が必要かどうかの入口の判定です。超えたら、その所得の全額が課税対象になります。20万5千円の所得なら、課税されるのは5千円ではなく20万5千円です。
まとめ
整理すると、こうなります。年末調整済みの会社員なら20万円。会社員でなければ所得控除との比較で、2026年分は基礎控除が95万円まで広がっている区分もある。そして住民税には20万円ルールがない。
ご自身がどこに当てはまるかは、まず「自分は年末調整を受けたか」「給与の支払先は1か所か」「今年ほかに確定申告をする理由があるか」の3つを確認するところからです。医療費控除やふるさと納税で申告する年は、20万円以下でも書くことになる。ここだけでも覚えて帰っていただけたら、この記事の役目は果たせたと思います。
相談の場でよくお伝えするのは「迷ったら申告しておくほうが後が楽」ということです。追徴のリスクを抱えて数年過ごすより、数千円の税金を払って終わらせるほうが精神的にも安い。もっとも、これは私の価値観が入った話で、取引件数が多く計算に数日かかる方だと割り切り方は変わるかもしれません。そこは正直、人によるとしか言えません。まずは年間の所得金額を正確に出すところから。数字が出れば、判断そのものは機械的です。
情報の出典(2026年10月26日確認)
- 国税庁「No.2020 確定申告」(確定申告が必要な方の判定基準、給与所得者・公的年金等受給者の要件)
- 国税庁「No.1900 確定申告を要しない場合の意義」(20万円以下でも確定申告を行う場合は申告が必要である旨、所法121・122)
- 国税庁「給与所得者の確定申告」(確定申告をしなければならない3つの場合)
- 国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(確定申告不要制度、住民税の申告が必要な場合がある旨)
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」および同パンフレット(PDF)(令和7・8年分の基礎控除95万円・88万円・68万円・63万円、令和9年分以後58万円、給与所得控除の最低保障額65万円、扶養親族等の所得要件58万円)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」令和7年12月最終改訂(問1-2、問1-3、問1-7、問2-2、問2-4、問2-8)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について」(暗号資産の売却・使用による利益は原則として雑所得)
- 広島市「申告先・申告期限・申告の必要性等(住民税)」(給与所得以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な人も住民税の申告が必要)
- 柏市「令和8年度以降、個人住民税がかからないかた(非課税)」(単身者の所得割45万円・均等割41万5千円)
- 那覇市「令和8年度個人住民税の主な改正点」(住民税の基礎控除43万円は据え置き、給与所得控除の最低額65万円)
- 大和総研「暗号資産取引に20%の申告分離課税導入へ」2026年2月6日(令和8年度税制改正大綱段階、施行時期は2028年が予想)
- クリプタクト「料金プラン」(Freeプランは50件を超えると損益の計算結果が表示されない、Basic年6,600円税込)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の暗号資産・金融商品・サービスの取得や売却を推奨するものではありません。税制および各社のサービス内容・料金は変更されることがあります。記載内容は2026年10月26日時点で国税庁および各自治体の公表資料で確認した情報に基づいていますが、正確性を保証するものではありません。住民税の非課税限度額など自治体によって異なる項目があります。ご自身の所得区分や控除の適用関係、個別の税務判断については、お住まいの地域を所管する税務署または税理士にご相談のうえ、ご自身の責任でご判断ください。

