今週は「指標は熱いのに相場は動かない」という、説明しづらい一週間でした。米国の物価統計は消費者段階も生産者段階も市場予想を上回ったのに、ビットコインの週間騰落は1.4%安。数字の割に値段が反応していません。
相談の場でもよく聞かれます。「インフレが強いならビットコインは上がるんじゃないんですか」と。教科書的な説明は成り立つのですが、ここ2年の実際の動きを見ていると、暗号資産は「インフレヘッジ」より「金利の高さに弱い資産」として振る舞っています。今週はそれが出た週でした。
今週の数字(10月17日時点)
CoinMarketCapの値を基準にします。ビットコインは8万1,593ドルで週間1.4%安、2週続落です。イーサリアムは2,435ドルで2.4%安。市場全体の時価総額は2.74兆ドルで、週間1.66%減りました。
目立ったのは下げ幅より「振れ幅」でした。週半ばに8万ドルを一時割り込み、7万9,700ドル近辺まで沈んでから8万2,000ドル台へ戻しています。行って来いです。短期で売買する人には荒い一週間、積立だけの人には何も起きていない一週間、という分かれ方をしたはずです。
- ビットコインのドミナンス:59.87%(先週59.54%)、イーサリアムは10.85%(同10.89%)
- Fear & Greed指数:49「中立」(先週57)
- デリバティブの建玉:3,984億ドルで週間2.0%増。ファンディングレートは平均+0.0070%と低位
- ビットコインの強制決済(7日間):6.31億ドル
- 7日移動平均8万2,379ドル、30日8万3,363ドル、200日7万2,360ドル
短期の移動平均を下回りつつ、200日線からはまだ9,000ドル以上上。RSI(14日)は46.5で、売られすぎでも買われすぎでもない。テクニカルから言えることは、正直あまり多くありません。先週のまとめで「3週続伸がストップした」と書きましたが、その流れがもう一段続いた、という整理が素直でしょう。
今週の主な出来事
1. 米9月CPIが予想を上振れ(14日)
総合が前年比+3.7%(予想+3.6%、前回+3.4%)、コアが前年比+2.6%(予想+2.5%、前回+2.4%)。コアの前月比も+0.3%で予想の+0.2%を超えました。総合の加速はガソリンなどエネルギー高が主因ですが、コアまで上がったことで「一時的」と片づけにくくなっています。
CME FedWatchでは10月会合での0.25%利上げの織り込みが21.6%から43.7%へ跳ね上がり、12月までに少なくとも1回という確率は88.0%から94.9%になりました。現在の政策金利は3.75〜4.00%です。15日朝の記事でも触れましたが、ここで相場観が一段変わりました。
2. 米9月PPIは4年ぶりの高水準(15日)
こちらはCPIよりインパクトがありました。前月比+1.3%(予想+0.6%)、前年比+6.3%(予想+5.4%)。コアも前月比+0.7%、前年比+5.0%で、前年比は2022年12月以来の水準です。小売売上高も前月比+0.8%で予想を上回りました。
ところが米10年債利回りは5.10%から5.04%へ下がり、ドル円は158円20銭から157円70銭へ。インフレ指標が強いのに金利が下がるという、ねじれた反応です。AI関連株への警戒から米国債に資金が逃げたためとされています。この構図は暗号資産にとって追い風にも向かい風にもなりうるので、どちらとも言い切れません。
3. ビットコインが一時8万ドル割れ、すぐ反発(15日)
CPI上振れの流れが東京時間に持ち越され、8万ドルを割り込みました。ただ8万1,000ドルを下回ると押し目買いが入り、円建てでは1,300万円近辺まで戻しています。週次オプションのカットオフを控え、8万ドルのストライクに建玉が集中していたことも効いていたようです。板の事情で止まった下げは、事情が変われば止まらなくなる。そこは割り引いて見たいところです。
4. 現物ETFから6.1億ドルの流出、ただし勢いは半減(週間)
米国の暗号資産ETF全体で、今週は6億1,070万ドルの純流出。前週の12億9,000万ドルから52.5%減りました。内訳はビットコインが2億2,840万ドル、イーサリアムが3億2,010万ドル。ソラナ、Zcash、Hyperliquidも合計6,220万ドル流出しています。
注目したいのは、イーサリアムの流出額がビットコインを上回った点です。ビットコインETFの運用資産残高は1,078億ドル(先週1,090.6億ドル)、イーサリアムは146億ドル(先週146.2億ドル)。残高が7倍以上違うなかで流出額が逆転しているので、イーサリアムのほうが相対的にきつく売られています。16日夕の記事でも触れましたが、流出が「止まった」のではなく「細った」だけ、という読み方が無難でしょう。
5. メタプラネットが520億円の転換社債(13日)
2031年満期の無担保ゼロクーポン・ユーロ円建てCBで、払込は10月29日予定。転換価格は未定ですが、mNAVが1となる株価を上回る水準にする方針です。調達資金のうち約236億円を11月の借入返済へ、残る最大283億円を自社株買い(枠は上限600億円)へ充てる計画です。詳細は14日夕の記事に書きました。
買い増しのための調達ではなく、ビットコイン担保の既存借入を置き換えるための調達です。この違いは小さくありません。保有企業の株をビットコインの代わりに持つ発想が相談の場でも増えていますが、株には資本政策という変数が乗ります。そこを理解しているかどうかで、同じ株を持っていても納得感が変わります。
6. ドイツ銀行が機関向けカストディを「数週間後に」(16日)
ビットコインとイーサリアムの保管から始め、ステーブルコインの移転やトークン化預金、デジタル証券は後続という設計です。対象は機関投資家と法人で、個人向けの発表はありません。MiCA第75条に沿って顧客名義で記録する建て付けとされます。稼働日も最初の顧客も公表されておらず、「決まった」のではなく「近い」段階です。
7. 国内の動き:OKJのNIGHT上場、トークン化預金
16日にOKJがミッドナイト(NIGHT)の取扱いを始めました。プライバシー関連チェーンの板取引は国内初です。なぜ日本で扱えたのかは別記事に、10月から動き始めたトークン化預金と43行の実証は13日の記事にまとめています。相場の話題より地味ですが、数年後に効いてくるのはこちらだと思っています。
今週をどう受け止めるか
CPIとPPIの中身を分けておくと、来週以降の解釈が楽になります。CPIの加速はエネルギー主導で、コアの上振れは0.1ポイント分。一方のPPIは予想との乖離が前月比で0.7ポイントありました。生産者段階のコストが消費者段階へどこまで転嫁されるかは、まだわかりません。転嫁が進めば12月の利上げは避けにくくなり、進まなければ企業の利益が削られる。どちらに転んでもリスク資産にとって楽ではない、というのが正直な見立てです。
強気に見る材料はあります。200日移動平均を9,000ドル以上上回っていること、ETFの流出が細ってきたこと、建玉が増えているのにファンディングレートが低位にとどまっていること。無理なレバレッジが積み上がっていない点では健全に近い状態です。
弱気の材料も同じだけあります。Fear & Greed指数が57から49へ落ちたこと、イーサリアムの資金流出がビットコインを上回ったこと、そして何より、インフレ指標が強いのに価格が上がらなかったこと。悪い材料に反応しないのではなく、良い材料にも反応しなくなっている。この鈍さは次の大きな動きの前に出ることが多いのですが、上か下かは正直わかりません。
CFPとして相談を受ける立場から言えるのは、月単位の値動きを当てる作業にあまり意味がない、ということくらいです。8万ドル割れは数時間のことでした。その数時間に注文を置けていた人がどれだけいるか。それより年末の損益通算や、ポートフォリオ全体に対する比率の確認に時間を使ったほうが、手元に残るものは大きいはずです。集計を12月に始めると間に合いません。損益計算の方法は先に決めておくと楽です。
来週の注目イベント
来週は相場を直接動かす材料より「FOMC前の空白」が主役になりそうです。FRBは17日からブラックアウト期間に入り、高官の発言は止まります。
- 19日(月) 中国の7〜9月期GDP、小売売上高、鉱工業生産/カナダCPI/米NAHB住宅市場指数
- 20日(火) 米住宅着工・建設許可/英失業率/GM、ネットフリックス決算
- 21日(水) 英CPI/日本の貿易収支/ベッセント米財務長官の発言/IBM、メタ、テスラ、テキサス・インスツルメンツ決算
- 22日(木) 米新規失業保険申請件数、景気先行指数/ユーロ圏消費者信頼感/P&G、ニューモント決算
- 23日(金) 日本の9月全国CPI(総合・コアともに前年比+2.1%の予想、前回は1.9%・1.7%)/日米の製造業・サービス業PMI速報値/ミシガン大消費者信頼感指数(確報)
- 27〜28日 FOMC(経済見通しの公表はなし)
- 28〜29日 ECB理事会
暗号資産に一番効きそうなのは21日のメタの決算かもしれません。ナスダックがAI投資への過熱感で売られている局面なので、ここで数字が受け入れられるかどうかがリスク資産全体のムードを決めます。今週17日もナスダックは2.1%下げましたが、ビットコインの下げは1%未満。株との連動が緩んでいるのは事実ですが、「独立して動けるようになった」のか「出来高が枯れているだけ」なのかは、まだ判断できません。
23日の全国CPIも見ておきたいところです。予想どおり2.1%なら12月の日銀利上げの材料になります。円高に振れると、円建てのビットコイン価格はドル建てより重くなる。円建てでしか見ていないと「ドルでは上がっているのに円では下がっている」が起きます。今年は何度かありました。
情報の出典(2026年10月17日確認)
- CoinMarketCap:価格、時価総額、ドミナンス、Fear & Greed指数、建玉、ETF残高(10月17日取得)
- OANDA証券:9月米CPI結果レビュー:CPIの結果とFedWatchの織り込み
- 財経新聞:米9月PPIは4年ぶり高水準:PPI・小売売上高、金利・為替の反応
- bitbank:ビットコイン相場分析(10月16日):8万ドル割れと反発
- crypto.news:Crypto ETFs lose $610.7 million:週間ETFフロー
- CRYPTO TIMES:メタプラネット520億円の転換社債:CBの条件と資金使途
- crypto.news:Deutsche Bank is weeks from crypto custody:対象資産とMiCA
- OANDA証券:FOMC開催日程:10月・12月の日程と政策金利
- ザイFX!:来週の注目イベント:経済指標・決算スケジュール
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