土曜の夕方になると、同じ質問がまとまって届きます。「結局、今週は何が起きたんですか」。
今週は、その整理がいつもより少し難しい週でした。日経平均は週で1%上がり、米ハイテク株も高値圏にいた。なのにビットコインは下がった。株と暗号資産が同じ方向を向かなかった週、というのが一番短い要約です。
今週のBTC・ETHの値動き
ビットコインは9日(金)の終値が8万2,123ドル、週間で2.81%の下落。3週続いていた上昇が止まりました。週の高値は8万6,949ドル、安値は8万427ドル(CoinGecko集計)で、一部取引所では8万350ドルまで突っ込んでいます。週明けに8万7,000ドル台を見ていたので、高値からは7%ほど削られた計算です。
執筆時点(10日18時57分JST)では8万2,772ドル、1ドル158円換算で約1,308万円。2025年10月の最高値12万6,080ドルからは、まだ3割以上下にいます。
イーサリアムのほうが厳しい週でした。9日終値2,488ドルで週間6.77%下落、足元は2,495ドル(約39万4千円)。BTCの下落幅の3倍近い。暗号資産全体の時価総額は2.8兆ドルで週間2.71%減ですから、ETHは市場平均よりも売られています。BTCのドミナンスは前週59.06%から59.47%へ上昇し、ETHは11.33%から10.89%へ低下。お金がBTCに逃げてETHから出ていった週、と読めます。
今週の主な出来事
1. 米国のETFから1週間で12.9億ドルが抜けた
今週いちばん大きな数字はこれだと思います。Farside Investorsの集計で、米国の暗号資産ETF全体から10月5〜9日の1週間で12億9,000万ドルの純流出。前週は2,920万ドルの純流入でしたから、きれいに裏返っています。
ビットコインETFが6億7,890万ドルの流出で、水曜だけで4億8,490万ドルと突出。銘柄別ではFBTCが3億8,030万ドル、ARKBが2億720万ドルの流出、IBITは週間でかろうじて110万ドルのプラスです。イーサリアムETFは5営業日すべて流出の合計5億4,220万ドルで、うち約88%がETHA1本分。ソラナETFやZcashのZCSHも流出で、カテゴリー全体から資金が引いた週でした。
2. 10月10日は、あの日の1周年だった
2025年10月10日、トランプ米大統領の関税発言をきっかけに190億ドル超の強制決済が起きました。市場で「10/10」と呼ばれる日です。今週はその1周年にあたり、「また何か起きるのでは」という警戒が語られていました。
ところがデータを見るとデレバレッジは進んでいません。CryptoQuantの推定レバレッジ比率は3日の約0.234から8日に約0.256まで上がり、週初より高い水準です。そして9日までの24時間で10億9,000万ドルの清算が発生し、うち10億5,000万ドルがロング。警戒していたはずの人たちが、結果としてレバレッジを積んでいた、という話になります。
ただ2025年ほど過熱していたわけでもありません。DeribitのBTC資金調達率は年率7.1%程度で、クラッシュ前の26.9%とは比較になりません。オープンインタレストも週間12.3%減。Glassnodeは次のレバレッジ集中帯を7万5,000ドル近辺と見ているようですが、そこまで落ちるかは正直わかりません。
3. CFTCが規則案を出し、SECと足並みを揃えた
10月5日、米CFTCが2本の規則案(事前通知)を公表しました。Regulation CTX(レバレッジ・証拠金・信用供与を伴う取引)とRegulation CAM(暗号資産市場という新しい登録区分)です。8月18日にSECが出したRegulation Crypto Assetsを補完する位置づけで、パブリックコメントは60日間。
注意したいのは、これでも現物取引の空白が埋まらない点です。CFTCにはレバレッジのかからない現物市場への権限がなく、そこは引き続き州の資金移動業規制が受け持ちます。本来それを整理するCLARITY法は9月に上院で止まったまま。規則で穴を埋めようとしているが、法律の穴は法律でしか埋まらない、という構図です。
4. FinCENは規則を撤回、IRSはステーキングの道筋を整えた
10月6日、米FinCENが国際的な暗号資産ミキシングを「主要な資金洗浄懸念」と認定する2023年の提案を撤回しました。定義が広すぎて正当な活動まで萎縮させるという意見が多く寄せられたためとされています。同じ6日、米財務省とIRSが暗号資産ETPのトラストによるステーキングのセーフハーバーを更新。ETFでステーキング報酬を扱う商品が増える下地になりそうです。
欧州では8日、ESMAがMiCA非準拠ステーブルコインについて「サービス提供者は一切のサービスを提供すべきでない」との意見を出し、既存の保有分もおおむね2027年1月初旬までの整理を求めました。日本への直接の影響は小さいものの、無許可のステーブルコインは扱えなくなる流れはどの法域でも共通しています。
5. 米政府が約15億ドルの押収コインを動かした
10月7〜8日、米政府に紐づくウォレットから合計約15億ドル相当が移動。8日には2016年のBitfinexハック押収分から12,267BTC(約10億1,000万ドル)が新しいアドレスへ移り、Arkhamによれば取引所への入金は確認されていません。2025年3月の大統領令で没収コインは売らずに保有する方針なので、移動そのものは売却の証拠になりません。それでも政府保有は推計32万〜33万BTC。動かすたびに市場が身構えるだけの量ではあります。
6. 国内は「売って買い戻した」開示と、新しい合弁
国内では上場3社がビットコイン保有を開示しました。目を引いたのはメタプラネットです。7〜9月に1万BTCを売却し1万1,000BTCを買い戻し、差し引き1,000BTCの純増で9月30日時点の保有は4万4,000BTC。ただ買い戻しの平均単価は売却時より約116万円高く、同社は「必要なら現金化できることを示す狙いがあった」と説明しています。流動性の証明としては意味があるのかもしれませんが、単価の差は結果として残りました。mNAV(時価総額÷保有BTC評価額)は0.63倍と1倍割れのままです。
事業面では9日、SBI・マネーフォワード・Meshがデジタル資産の購入や送金、決済を簡素化する合弁会社の設立で基本合意。JPYC社は公正取引委員会に決済市場の情報提供を行ったと伝わっています。財務省が国債のオンチェーン化の類型を示したという報道もあり、トークン化株式の24時間取引をまとめた記事の延長線上にある話です。
マクロ:株は上がり、債券は重かった
日経平均は2日の68,309円から9日の69,031円へ、週間721円(1.06%)の上昇。6日には70,684円まで乗せて3か月ぶりに7万円台で引けました。月曜は米雇用統計の下振れで利上げ観測が後退し1,637円高。ただ水曜以降は半導体株の利益確定売りと米長期金利の高止まりで押し戻されています。
その金利が今週も効いていました。米10年債利回りは8日終値で5.2268%、5日には5.31%。2年債は4.77%、9月の実効FF金利は3.75%です。原油はWTIが91〜92ドル台、ブレントは一時105ドル超で、金曜は中間選挙前のイラン情勢を巡る発言で軟化。ドル円は158円台です。
10年金利が5%台に居座ると、「リスクを取らずに5%」という選択肢が目の前にある状態が続きます。9日夕の記事でも触れましたが、株は企業収益の伸びで5%を正当化しに行ける。ビットコインは利息を生まないので、金利が上がった分だけ相対的な魅力が削られます。今週の乖離の背景には、たぶんこの構造の違いがあります。
来週の注目イベント
ひとつに絞るなら、14日(水)の米9月CPIです。日本時間14日21時30分の発表。市場コンセンサスは総合で前年比3.7%前後、クリーブランド連銀のナウキャストは3.60%、コアは2.4%で横ばいという見方です。8月は総合3.4%・コア2.4%でしたから総合は上がる方向。ただし上昇の主因はエネルギーとされており、サプライズのリスクはコアのほうにあります。
これが27〜28日のFOMCにつながります。10月の追加利上げ確率は2日の雇用統計を受けて21.6%まで落ち、7日時点で26%程度。市場は見送りに傾いていますが、コアが0.3%以上出れば織り込みは一気に戻るかもしれません。逆にコアが0.1%以下なら、12月利上げの前提まで疑われます。
- 13日(火):RBA議事要旨、OPEC月報、日本の9月PPI、米大手銀の決算スタート(JPモルガン、ゴールドマン、シティ、ウェルズ・ファーゴ)
- 14日(水):米9月CPI、中国9月CPI、FRBベージュブック、IEA月報、モルガン・スタンレーとバンク・オブ・アメリカの決算
- 15日(木):米9月小売売上高、米9月PPI、豪雇用統計、英GDP(8月)、フィラデルフィア連銀景況指数
- 16日(金):米9月鉱工業生産、ユーロ圏CPI確報
- 27〜28日:FOMC(決定は28日)
暗号資産固有では、イーサリアムの次期アップグレード「Glamsterdam」が今週Sepoliaテストネットで実施。アカウント抽象化とデータ可用性の改善が狙いですが、メインネットの日程はまだ出ていません。
相談を受ける立場から、今週をどう見たか
強気側では、まずオープンインタレストが12%減ってレバレッジが落ちたこと。資金調達率も2025年クラッシュ前の4分の1程度で、過熱とは言いにくい。規制面ではCFTCとSECが足並みを揃え、FinCENは過度に広い規則を撤回し、IRSはステーキングの道筋を整えました。ルールが決まっていく局面は、長い目で見れば機関投資家の参加を増やす方向に働くはずです。恐怖・強欲指数が前週の67「貪欲」から56「中立」まで下がった点も挙げられます。
弱気側の材料のほうが、今週は数が多かったかもしれません。ETFから12.9億ドルが抜け、ETH ETFは9営業日連続の流出。Santimentによれば4〜8日にETHの取引所残高が10万ETH以上(約2%)増えています。取引所に戻るのは売る準備と解釈されることが多い。そして何より10年金利5%台です。ここが下がらない限り、持っているだけでは何も生まない資産への逆風は続きます。
相談の場でよく聞かれるのは「今、買い増していいですか」です。来週のCPIとFOMC次第で短期の絵は大きく変わるので、そこを当てにいく前提の判断はおすすめしません。私が確認するのはいつも同じ3点。資産全体に対する比率が、下落しても生活と精神が崩れない範囲に収まっているか。レバレッジを使っていないか。年内の税務上の整理が終わっているか。
3つめは今の時期に特に効きます。暗号資産は現行制度では雑所得で、損失の繰り越しができません。年内に確定させるかどうかで手取りが変わる場面があります。年内にやることをまとめた記事と分離課税20%への改正の全体像は、この時期に一度読んでおいて損はないはずです。仕組みから確認したい方はビットコインの基礎とイーサリアムの基礎もあわせて。
来週も、まずは14日の数字を見てからです。
情報の出典(2026年10月10日確認)
- CoinMarketCap|Bitcoin(価格・騰落率・ドミナンス・恐怖強欲指数・オープンインタレスト、10月10日18時57分JST時点)
- Rio Times|Bitcoin Ends Week 2.8% Lower at US$82,123; Ether Falls 6.8%(10月9日終値ベースの週間騰落)
- crypto.news|Crypto ETFs shed $1.29b as Bitcoin and Ether lead exits(Farside Investors集計、10月5〜9日のETFフロー)
- CoinDesk|U.S. CFTC joins SEC in proposing crypto regulations(Regulation CTX/CAMの内容と現物市場の空白)
- Lowenstein Sandler|Crypto Brief – October 8, 2026(CFTC規則案、FinCENのミキシング規則撤回、IRSステーキング・セーフハーバー、ESMA意見)
- U.S. Bureau of Labor Statistics|Consumer Price Index(9月CPIの公表日程)
- Federal Reserve|FOMC Meeting Calendars(10月27〜28日の日程)
- Newsquawk|Week in Focus 12-16th October 2026(来週の経済指標・決算日程)
- Admiral Markets|US CPI September 2026: Scenarios and Fed Odds(CPI予想とFOMC利上げ確率)
- BeInCrypto/TradingView|Crypto’s 10/10 Trauma(CryptoQuant推定レバレッジ比率、清算額、資金調達率)
- Yahoo Finance|The U.S. Government Moved $1.5 Billion in Seized Crypto in Two Days(Arkham集計、政府保有量)
- JinaCoin|国内企業のBTC保有、今週は3社が開示(メタプラネット、リミックスポイント、Bitcoin Japan)
- あたらしい経済|10月9日の話題(SBI・マネーフォワード・Meshの合弁基本合意、JPYC社の公取委への情報提供)
- TBLアドバイザリー|週間にっけい 2026/10/05〜10/09(日経平均の週間値動き)
- InteractiveCrypto|2年債は低下、10年債は上昇(米金利・実効FF金利の水準)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産・金融商品の購入や売却を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本が保証された商品ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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