【10月20日】給付金・国債・日銀当座預金が「オンチェーン」へ|金融庁フォーラム議事録で見えた日本の工程表をCFPが読む

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「国債がブロックチェーンに乗るって、本当なんですか」。先週の面談でそう聞かれました。60代の方で、国債は個人向け変動10年を少し持っているだけ。暗号資産には一円も入れていません。それでもニュースの見出しが気になったそうです。

答えに困りました。嘘ではない。でも「だから何が変わるか」を一言で言える段階にない。そのもどかしさが10月19日に公表された一本の議事録でかなり整理できたので、今日はそれを扱います。

10月19日、金融庁が公表した議事録のこと

金融庁は10月19日、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」第1回会合(9月30日開催)の議事録を公開しました。座長は片山さつき金融担当大臣。デジタル庁、財務省、日本銀行、全国銀行協会が出席し、それぞれの検討状況を報告しています。有識者は宇井理人氏、神田秀樹氏、大槻奈那氏、鈴木智佳子氏、野崎浩成氏、根本直子氏、森下哲朗氏の7名で、欠席した翁百合氏は意見書を提出しました。

会議そのものは1時間。内容も各省庁の進捗報告が大半です。ただ、報告を並べて読むと、日本が何を順番にやろうとしているのかが見えてきます。

テーマ深掘り:給付金・国債・日銀当座預金という三つの入口

報告は大きく三つに分かれます。

ひとつめは給付金です。デジタル庁の蓮井統括官は、ブロックチェーンのプログラマビリティを使って「子育てですとか食料品といった特定の目的に給付金の使途を限定するようなきめ細かな給付を可能とし」たいと述べています。ステーブルコインやトークン化預金を給付の器として使えるか、技術面から検討する方針です。使途を限定した給付はこれまで紙のクーポンやポイントでしたが、それをプログラムで実現するという話です。法令上の扱いは別の会議体で省庁横断的に整理するとされており、まだ設計図の前の段階です。

ふたつめは国債です。財務省の阿久澤理財局長は「国債のオンチェーン対応に関して、有識者の方々から成る新たな研究会を10月に開始をいたします」と報告しました。実際に10月8日に初会合が開かれています。委員は加藤貴仁氏・加毛明氏(東京大学)、篠潤之介氏(早稲田大学)、柳川範之氏(東京大学)、森田長太郎氏(オールニッポン・アセットマネジメント)の5名で、日銀と金融庁がオブザーバー参加。2026年12月から2027年1月をめどに議論を整理する予定です。

この研究会で財務省が示した「3類型」が、個人的にはいちばん示唆に富んでいました。報道によれば、①国債に投資する投資信託(MMF)の受益権をオンチェーンで移転させる形、②既存の振替制度の振替口座簿をオンチェーン対応させる形(単一の口座管理機関内で完結/複数機関を接続/日銀の振替口座簿まで広げる、の3段階)、③既存の振替決済制度の外でブロックチェーン上に新形態の国債を発行する形です。

①から③へ進むほどハードルは上がります。注目すべきは、財務省が最初から③を目指しているわけではない点でしょう。①なら国債そのものを一切変えずに済む。つまり「国債のトークン化」と報じられているものの中身は、当面は国債を包んだ投信の受益権の話になる可能性が高い。期待と現実のギャップが生まれやすいところだと思います。

みっつめは日銀当座預金です。日本銀行の神山理事は、日銀当座預金をブロックチェーン上の決済に使うための「DLT連携サンドボックス」での技術検証と、BISとIIFが主導する国際プロジェクト「アゴラ」への参加に言及しました。アゴラは商業銀行預金と中央銀行預金をトークン化し、共通の基盤で24時間365日のクロスボーダー決済を目指すものです。BISは今年5月27日に、プロトタイプ段階で複数通貨のアトミック決済が可能だと示したうえで、実際の価値を伴うテストへ進むと発表しています。参加中銀は日銀を含む7行(カナダ銀行も加わり)、民間金融機関は40社超。

加えて全銀協の黒澤企画委員長は、「次世代の銀行間決済基盤に求められる役割などについて協議、検討する」検討会の設置を報告しました。預金を動かす土管そのものを作り替える議論です。民間銀行の預金トークンは10月13日の記事で「二本立て」構造として整理し、海外の動きはJPモルガンの件を昨日扱いました。

数字を見ると、熱狂とは少し違う景色になる

金融庁の堀本局長は会合で、ステーブルコインの発行残高が「現在約3,100億ドル」、うち約83%がドル建てだと説明しました。円建ては統計の端にも出てきません。国内最大のJPYCは9月18日に累計発行額100億円を突破しましたが、ドル建て49兆円規模に対して桁が三つ違います。

RWA(実世界資産のトークン化)全体も、rwa.xyzの10月20日時点のデータでは配布資産価値が約389億ドル、30日で0.5%増とほぼ横ばい。看板のトークン化米国債ファンドは合計145億ドルで、30日では2.9%減っています。117本・保有者85,521人。単純に割れば一人あたり約17万ドルです。

この数字の意味は、はっきりしていると思います。トークン化米国債は実在する市場ですが、機関投資家の担保・資金置き場としての市場であり、個人が証券口座から買うものではありません。「RWAが来る」という話と「自分が買える何かが増える」は、いまのところ別物です。トークン化株式についても制度面のハードルは10月6日に整理したとおりまだ高い。

有識者が指摘した、気になる五つの論点

議事録で印象に残ったのは、むしろ懸念の側でした。

宇井理人氏は、インフラとユースケースが互いを待ち合う「鶏と卵」の問題を指摘し、個別施策は素早く小さく始めるべきだと提言。神田秀樹氏は最適な組み合わせが変わり続ける「ムービングターゲット」だと強調しました。鈴木智佳子氏は、プログラムによる統治がブラックボックス化すると「信頼の空白」が生まれるとして、追跡可能な証跡の確保を求めています。根本直子氏は国内銀行の出遅れによる決済業務の海外流出を、森下哲朗氏は中核技術の海外依存リスクを挙げました。

どれも推進派の資料には書かれにくい話です。とくに「信頼の空白」は、自動化すれば効率が上がるという前提への冷静な注釈だと受け取りました。

相場は制度の話にほとんど反応していない

足元の相場も見ておきます。10月20日夕のCoinMarketCapのデータでは、ビットコインは81,392ドル(24時間1.5%安、7日2.6%安)、イーサリアムは2,381ドル(24時間2.1%安、7日5.2%安)。全体の時価総額は2.72兆ドル、ビットコインのドミナンスは60.2%。Fear & Greed指数は47の「中立」で、1カ月前の72(Greed)から大きく下がりました。朝方の状況は今朝の記事に書いています。

議事録が出ても相場は動きません。制度設計の話が価格に効くまでには何年もかかる。ここを混同すると「国債がトークン化されるからビットコインが上がる」という無理な接続をしてしまいます。

強気の見方と、弱気の見方

強気側の論拠はわかりやすい。給付金・国債・日銀当座預金という国の金融インフラの中枢に、同時に検討の手が入っています。片山大臣は2027年初めに中間整理と官民連携のロードマップをまとめると述べ、金融庁は2027年2月に「アジアデー2027」を開く意向も示しました。今年4月に閣議決定された金商法・資金決済法の改正案とあわせ、日本が制度面で主導権を取りに動いているのは確かでしょう。

慎重側の論拠も同じくらい強い。報告の多くは「検討する」「研究会を始める」の段階です。3類型も「議論の出発点として暫定的に整理したもの」と明記されています。既存の振替決済制度を残したまま一部だけオンチェーンに載せる設計では、効率化の果実は限られる。米DTCCのトークン化実証をめぐる大和総研のレポートも、決済が従来の銀行送金に依存したままでは効果が限定的で、トークン化預金やステーブルコインとの連携が不可欠だと指摘しています。同じ壁が日本にもあります。

どちらが正しいかは、正直わかりません。ただ、中間整理までニュースの材料は出続ける一方で、個人の口座で何かが変わる時期はまだ見えない。このズレは意識しておいたほうがいいと思います。

相談を受ける立場から、三つだけ

相談の場でこの手のニュースについてお伝えしているのは、三点です。

第一に、いま動くべき理由はありません。制度が固まる前に関連銘柄を買っておくという発想は、流動性の薄い市場では高い買い物になりがちです。

第二に、「国債のトークン化」と聞いて国債を買い替える必要はありません。①でも②でも個人向け国債の商品性は変わりません。むしろ注目すべきは、決済が24時間化したときに投信や証券の約定・受渡のタイミングがどう変わるか、という地味な部分でしょう。

第三に、使途を限定した給付金がステーブルコインで配られる世界が来るなら、それは投資ではなく家計の話です。案内が来たときに戸惑わない程度に仕組みを知っておけば十分だと思います。

制度は静かに進みます。騒がしいのはいつも相場のほうで、こちらは数年単位で効いてくる。退屈でも、議事録のほうを読んでおく価値はある気がしています。

情報の出典(2026年10月20日確認)

  • 金融庁「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」(第1回)議事録(2026年9月30日開催/10月19日公表)
  • 財務省「国債のオンチェーン対応に関する研究会」第1回会合(2026年10月8日)および同研究会で示された3類型に関する報道
  • BIS「Project Agorá shows how tokenisation can improve wholesale cross-border payments」(2026年5月27日)
  • rwa.xyz(2026年10月20日時点の配布資産価値・トークン化米国債残高・保有者数)
  • CoinMarketCap(2026年10月20日のBTC・ETH価格、時価総額、ドミナンス、Fear & Greed指数)
  • JPYC株式会社「日本円ステーブルコイン『JPYC』、累計発行額100億円を突破」(2026年9月18日)
  • 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」(2026年4月)
  • 大和総研「米DTCC、トークン化株式の本番取引を開始」(2026年10月8日)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産・金融商品・サービスの取得や売却を推奨するものではありません。暗号資産およびデジタル証券は価格変動が大きく、元本が保証された商品ではありません。制度・税制・商品内容は今後変更される可能性があるため、最終的な情報は金融庁・財務省・国税庁および各社の公式発表でご確認ください。個別の税務判断については税理士に、具体的な投資判断についてはご自身の状況を踏まえてご検討ください。本記事の情報に基づく判断により生じたいかなる損害についても、筆者および当サイトは責任を負いません。

この記事を書いた人
CFP®認定者/ファイナンシャル・プランナー

あきFP/CFP®認定者・ファイナンシャルプランナー。製薬会社のMRを経て金融の仕事へ。暗号資産の税金と資産設計を中心に、相談の現場で実際に聞かれることを、初心者にも分かる言葉で整理してお届けしています。著書に『暗号資産の持ち方 守りの教科書』『暗号資産の税金 守りの教科書』ほか(著書一覧)。

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